はじめに

今や年末の風物詩となった「今年の漢字」は、その年の世相を表すものとして注目されています。例年、京都・清水寺で同寺貫主が揮毫し、メディアにより大々的に報道されます。2018年で24年目を迎えましたが、振り返ると選ばれた漢字がその年々の景気の良し悪しを映しているように感じられます。

2018年7~9月期の実質GDP(国内総生産)成長率・第2次速報値は自然災害の影響が大きく、前期比年率▲2.5%とマイナス成長になりました。また、夏場の自然災害の影響で景気動向指数を使った機械的な景気の基調判断が、それまでの「改善」から、9月分と直近10月分は「足踏み」に下方修正されています。

2018年の「今年の漢字」である「災」は、このような景気の落ち込みの要因を示唆するものになりました。


「今年の漢字」は景気動向を反映する傾向

日本漢字能力検定協会は毎年12月12日に、その年の世相を表す「今年の漢字」を発表します。一般の人がハガキやインターネットなどで投票し、多く票を集めたものが選ばれる仕組みで、どんな漢字になるかによって足元の景況感を推し量ることができます。

景気が良く明るいムードが社会に満ちている時は、ポジティブな意味の漢字が選ばれる傾向にあります。たとえば、愛知万博が開かれた2005年が「愛」だったのは、いざなみ景気の拡張局面にあることを示唆する象徴的なケースでした。

逆に景気が落ち込んでいる時は、暗いイメージを思い起こさせる字が選ばれやすい傾向があります。北海道拓殖銀行、山一證券、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の破綻といった金融危機が生じていた1997年、1998年の漢字は「倒」「毒」でした。

東日本大震災が発生しても景気拡張局面継続となった2011年は「絆」が選ばれました。大地震の発生した年は「震」(1995年:阪神淡路大震災)、「災」(2004年:新潟中越地震)のように災害を表す漢字が選ばれていましたが、2011年は復興への前向きな気持ちを表す漢字が第1位に選ばれました。

「絆」以外にも「助」「復」「支」といった前向きな漢字がベスト10にランクインしていました。世の中の前向きな雰囲気もあり、2011年の景気の落ち込みは極めて短期間でした。

7~9月期マイナス成長の主因は「災」

2018年の今年の漢字は「災」でした。北海道胆振東部地震、大阪府北部地震などの地震、平成30年7月豪雨、台風21号・24号の直撃、記録的猛暑など、平成最後の夏には自然災害が多発しました。北海道胆振東部地震では、北海道全域で電力供給が止まる「ブラックアウト」も生じました。

自然災害は日本各地で人々の生活を脅かしました。景気にも悪影響を及ぼし、7~9月期のマイナス成長につながりました。一方で、山口県で2歳児を救出した尾畠春夫さんをはじめ、全国の被災地で災害復興を支えるボランティアにも注目が集まりました。

また、「災」が選ばれた別の理由として、仮想通貨の不正流出、スポーツ界でのパワハラ問題、財務省決裁文書改竄、大学不正入試問題などの出来事が挙げられています。これらも人々は「災」と考えたようです。

なお、「災」が選ばれたのは、投票開始直前の10月下旬に新潟中越地震が発生した2004年以来です。2004年は一時的なもたつきの後、景気拡張局面が継続しました。2018年も景気のもたつきは一時的で、10~12月期の実質GDP成長率は前期比年率プラス成長に戻りそうです。

なお、2018年「今年の漢字」の第2位は「平」でした。応募者が「平」を選んだ理由としては、「平」成最後の年、「平」昌オリンピックでの小「平」奈緒選手・「平」野歩夢選手をはじめとする日本勢の活躍、メジャーリーグで大谷翔「平」選手が二刀流の大活躍で新人王を獲得、南北首脳会談・米朝首脳会談などによる「平」和への期待の高まり、フリージャーナリスト安田純「平」さんの無事帰国、また、災害が多かったことから「平」穏無事を願う年でもあったこと、などが挙げられるということです。

世相を映す紅白でのサブちゃん歌唱曲

景気動向指数一致CIによる景気の基調判断は、11月分も「足踏み」となる見通しです。しかし、早ければ2月7日に発表予定の12月分・速報値で「改善」に戻ります。11月分が9月分程度の落ち込みなら、12月分は前月差0.1の上昇で十分「改善」の条件を満たすからです。

2019年1月には景気拡張期間が74ヵ月連続となり、戦後最長の「いざなみ景気」の73ヵ月を抜くことになります。12月調査の日銀短観・全規模・全産業の業況判断DIは、9月調査から1ポイント改善しました。10~12月期の実質GDP成長率もプラスに転じることでしょう。

そうした景気の動きを裏付ける身近な社会現象は、平成最後の「NHK紅白歌合戦」に、5年前に50回出場を区切りとし紅白を卒業した北島三郎さんが特別枠で復帰し、「まつり」を歌うことです。「やっぱりサブちゃんを紅白で見たい」という多くのファンの声を受けたNHKの出演依頼を、北島三郎さんが受諾したということです。

北島三郎さんが数あるヒット曲の中で、人々の気持ちを盛り上げる「まつり」を歌った紅白は過去6回すべて景気の拡張局面に当たります。なお、バブルが崩壊した1992年や東日本大震は、しんみりとした曲調の「帰ろかな」を歌われています。

北島三郎さんの紅白歌合戦での「まつり」の熱唱が、平成最後の夏の「災」を吹き飛ばし、新しい年の始まりに元気を与えることでしょう。“「災」転じて福”となることが期待されます。

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