はじめに

能力水準が問題視されているワケ

刑事事件関連の通訳を総称する「司法通訳」という言葉を考案したのは、司法通訳人の技能と地位の向上を目的として活動している、一般社団法人・日本司法通訳士連合会(JLIA)の天海浪漫・代表理事です。

実は、司法通訳人の技能の低さが問題視されていて、数年前には日弁連が法廷通訳人の能力確保のために、国家資格の創設を求めたこともあります。現状では登録は誰でもできる状況にあり、登録の際に試験も一切ないので、天海氏らも「国家資格への格上げ」を活動目標に掲げています。

欧米と異なり、日本では弁護士が取り調べに立ち会うことが許されていないので、弁護士が捜査通訳と接点を持つことはありません。しかし、法廷通訳とは裁判の場で接点があります。被告人の命運を左右する法廷でのことですので、そのレベルの低さが問題視されているのです。

「能力が低いのは法廷通訳だけでなく、捜査通訳や弁護通訳においても同様」(天海氏)だそうなのですが、その理由が実は看過できない理由なのです。「登録している人数は多いのに、実際に通訳の仕事がもらえるのは、裁判所の担当書記官や検察・警察の通訳の人選担当者と懇意にしている、ほんの一握りの人」(同)だというのです。

特に能力不足が著しいのが、日本語の能力ではなく、母国語の能力のほうだといいます。登録している人は日本人も外国人もいるそうですが、外国人の場合、書記官に対する高い営業力を持っているのは日本語が堪能な外国人とのこと。そして、書記官は外国語が話せないので、外国語の力量を判断する力がないわけです。

「儲からない」はウソ、月収90万円の事例も

「負担が重い割に報酬が低いので成り手が少なく、レベルも上がらない」といった報道も出ていますが、天海代表はこれも全面的に否定します。

法廷通訳の場合、時給はおおむね1万5,000円だそうですが、公判の数日前に検察官から冒頭陳述や証拠の要旨などの書類を事前にもらい、準備するための時間は無報酬で、法廷も1回1時間程度だから、というのが、「負担が重い割に報酬が低い」という報道の根拠です。

しかし、天海代表は「仕事は翻訳ではなく通訳。事前に書類をもらわなくても、裁判官は同時通訳がしやすいように、適宜言葉を切る配慮をしてくれる。事前に書類をもらわないと訳せないのは、能力が低いから。時給1万5,000円という報酬は極めてパフォーマンスがいい」と言います。

前述のように書記官などと懇意にしている人ばかりが指名されるので、1ヵ月に90万円くらい稼ぐ人もいるそうです。

登録者数が減っているのはなぜ?

また、登録者数が減っていることについても、天海代表は「負担が重いから」という従来報道の内容を否定します。そのうえで、登録していても一向に仕事が来ないだけでなく、人選の基準もプロセスも不透明だし、そもそも報酬の規定自体を裁判所がまったく開示しないからだ、と説明します。

「何となく時給1万5,000円くらいなんだろうと、もらった側が感じているだけ。何に規定されているのか、問い合わせても答えてくれない。だから優秀な人材が関心を抱かず、通訳人の中でも司法通訳は何段階も低く見られる」(同)

ちなみに、「司法通訳」「司法通訳技能検定」など複数の言葉を商標登録もしていますが、無断で使用する事業者が後を絶たないそうです。

司法通訳の報酬は、弁護通訳のうち弁護士や弁護士会が負担するケースを除けば、税金で賄われています。にもかかわらず、そんな不透明な運用がされているとすれば問題です。

そこで、税金で司法通訳の報酬が賄われている場合に絞り、ホームページ上で報酬規定を明記している法テラスを除く、東京地裁、東京地検、警視庁に対し、報酬規定の有無や天海氏らの主張をぶつけているところです。その結果は、年明け配信予定の次回記事でお伝えしたいと思います。

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