はじめに
今年世界の主要株式市場の株価パフォーマンスを振り返ると、2018年は日本円で投資した場合すべての市場がマイナスのリターンになりました。中でも深セン総合指数と上海総合指数、香港ハンセン指数に代表される中国株の軟調さが目立ちました。
中国株が大幅に下落した原因としては、実体経済の減速や米中貿易摩擦の激化、投資家心理の悪化などが考えられます。中でも米中貿易摩擦は、中国株にとって大きな懸念材料となっており、来年以降も株式市場の重石になると予想されます。今回は、中国株の来年の見通しについて考えてみたいと思います。
米中関係は2019年後半から解決に向けて進展するか
中国株の動向を予測する上で、(1)米中関係と(2)実体経済、(3)政策動向という3つの面である程度見通しを立てる必要があります。
このうち(1)米中関係については、12月1日に行われた米中首脳会談で対中追加関税の発動が2019年2月末に延期され、中国も米国に対して譲歩する構えを見せるなど、足元米中の緊張緩和期待が高まっています。しかし、米中貿易問題を巡る両国の主張の隔たりが依然大きいため、短期的に解決する可能性は小さいと思われます。
他方、米国では2年物国債と5年国債の利回りが逆転し、米国の利上げ回数に対する市場予想(FF金利先物による予想値)も2回から0~1回に低下するなど、米国経済の先行きに不透明感が出始めています。
現在の市場予想によれば、米国の政策金利は2020年から利下げに転じる見通しで、これに先駆けて2019年後半から米国の景気に変調が生じると予想されます。そうなると、トランプ政権は米国経済への配慮から対中姿勢を軟化させる可能性があり、2019年後半から米中貿易問題は解決に向けて進展すると見ています。
実体経済は基本的に減速基調
次に(2)実体経済についてです。2018年後半から中国の製造業PMIや小売売上高、自動車販売台数など様々な経済指標が悪化し始めており、2019年も景気の減速基調が続くと見ています。
その中で、2019年の中国の実質GDP成長率は6.5%以下に低下し、企業利益の伸びも鈍化すると思います。特に製造業に関しては、米中貿易問題に加えて、アップルのiPhone減産や自動車販売減速などの悪影響もあり、企業業績の落ち込みが目立ちそうです。
金融政策は緩和基調、減税と財政出動に期待
そして(3)政策動向についてです。米中貿易問題の激化を受けて、中国政府は2018年に預金準備率の引き下げや中小企業向けの融資支援に動くなど、金融政策のスタンスを「緩やかな引締め」から「緩和」に切り替えました。
また、財政政策の面では、個人減税や法人減税を通じて国内の消費拡大を図ったほか、鉄道インフラの投資額を増やすなど景気の下支えに乗り出しています。
2019年の政策動向も前述の流れを引き継ぐ見通しですが、中国政府は預金準備率の引き下げと利下げを視野に入れながら、過剰債務が増えないように財政政策の軸足をインフラ投資から減税に移すと見ています。
2019年前半は中国本土市場、後半は香港市場優位の展開か
米中関係と実体経済、政策動向を総合的に勘案すると、2019年の中国株相場は、企業業績の悪化が見込まれるものの、金融緩和と減税、財政出動を背景に株価の反発を想定しています。
また、人民元の対米ドルレートは、米国の景気減速観測でドル高・元安圧力がやや和らぎ、1米ドル=6元台後半から7元未満の水準で推移すると思います。
その中で、2019年前半は中国本土市場、年後半は香港市場が優位になると見ています。年前半は、米中貿易問題に対する懸念が依然根強く、企業業績の鈍化も見込まれますが、3月の全人代(中国の国会)をきっかけに政策支援期待が高まり、政策と個人投資家の動向に影響されやすい中国本土市場(上海、深セン)の株価反発が期待できそうです。
一方、年後半は、米中貿易問題に対する懸念が後退し、中国経済や企業業績の見通しも改善に向かう可能性があることから、実体経済と海外投資家の動向に左右されやすい香港市場に資金が流入しそうです。
投資テーマはEコマースや電子決済、消費拡大、インフラ投資などに注目
2019年中国株の投資テーマとして、Eコマースと電子決済、消費拡大、インフラ投資などに注目したいと思います。このうちEコマースと電子決済は、技術革新の代表分野として成長余地が大きいほか、中国国内で事業を展開している企業が多いため、米中貿易問題による悪影響も小さいメリットがあります。
また、個人減税やインフラ投資など積極的な財政政策によって、国内需要が押し上げられ、消費拡大やインフラ投資に関連する企業が恩恵を受けそうです。
以上のことから、2019年の中国株相場は米中貿易問題と企業業績の悪化が懸念されているものの、金融緩和と政策支援を背景に株価の反発に期待したいと思います。
<文:市場情報部 アジア情報課 王曦 写真:ロイター/アフロ>