はじめに
2019年がスタートしました。主要な金融商品の2019年相場について、業界を代表する専門家に聞く短期集中連載、第1回目は日本株です。
2018年の日本株市場は秋から年末にかけて波乱に見舞われ、7年ぶりに年間を通して下落した年となりました。新しい年の相場に、巻き返しのチャンスはあるのでしょうか。JPモルガン証券・株式調査部の阪上亮太チーフ株式ストラテジストに相場見通しを聞きました。
悪材料を猛スピードで織り込んだ1年
――2018年を振り返って、日本株市場はどんな1年だったでしょうか。
阪上さん(以下同): 景気や企業業績は堅調でしたが、株式市場は「世界経済の減速するのではないか」という懸念や、米中貿易戦争などグローバルな悪材料に敏感に反応し、早いタイミングでどんどん株価に織り込んでいく動きが目立ちました。
秋には割安さが見直されて高値を更新する局面があったものの、直後に米国の長期金利上昇を契機とした世界同時株安に巻き込まれて大きく下落し、年末まで波乱の値動きが続きました。年後半の波乱は貿易戦争よりも、米国経済の減速懸念が招いたものです。
業種別の株価を見ても、世界経済はまだ拡大しているのに、上昇したのは電気・ガス、医療品など内需業種が中心。本来なら買われていいはずの外需産業は振るわず、投資銘柄の見極めが難しい1年となりました。
個人投資家にとっては厳しい1年だったと思われますが、機関投資家やアクティブファンドを運用するプロにとっても難解な相場で、波に乗れたところは少なかったでしょう。市場がこの状態ですから、インデックス運用をする投資家も当然ながら損失を出しています。
――なぜ海外要因でここまで下落したのでしょうか。
日本の株式市場は、取引の6~7割を外国人投資家が占めています。「アメリカがくしゃみをすると日本が風邪をひく」といわれてきたように、過去の日本の景気や株価は米国経済の変動に大きく振らされてきたので、この敏感さが彼らにとっては警戒の対象となっています。
最近の日本株市場は内需企業が成長したことなどで、ドル円相場の影響を受けにくくなってはいるのですが、それでもやはりグローバル要因で悪材料が出ると外国人投資家が真っ先に日本から資金を逃がそうとする動きは根強く残っています。
アベノミクス相場以降の株価を振り返ると、2015年までは日本銀行の金融緩和という日本独自の要因で買われましたが、2017年以降は国内事情がほとんど影響せず、ほぼ米国を中心としたグローバル要因で動いてきました。
2つの転換点を迎えた世界経済
――世界経済はそんなに悪い状況なのですか。
米国の景気はピークアウトの気配が見えてはいますが、まだ拡張局面にあります。しかし株価は景気に先行するので、先々の材料を織り込んだ値動きをするものです。多くの市場参加者が米国経済は近い将来に後退局面入りすると考えることで、株価は景気に先んじて下落していきます。
世界経済は今、2つの転換点を迎えています。1つは景気です。2009年から始まった米国の長い景気拡大局面は、いよいよ終わりに近づいています。
もう1つの転換点は、金融政策です。2008年以降、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が実行してきた大規模な金融緩和は2015年末に終焉し、引き締め局面に入っています。しばらくは利上げをしているのに景気も株価も過熱する状況が続いていましたが、2018年に入ってようやく引き締めの効果が顕在化してきました。
これは、景気拡大と金融緩和という株式市場を支えてきた2つの強力なサポートが、一度に失われることを意味しています。そして、過去10年の株式市場とはまったく様相の異なる新しい相場に切り替わろうとしているわけです。
――具体的に、2019年の株式市場はどういう展開が考えられるでしょうか。
日本企業の業績自体は悪くありません。それでも、米国の景気減速懸念と金融引き締めという、2018年のマーケットを下押ししてきた要因に敏感に反応する相場が続き、大きな上昇は見込みにくいでしょう。
とはいえ、これらの悪材料はすでに株価に相当織り込まれているので、大きく下がる可能性も低い。要するに、上値は重いが下値も限定的で、日経平均株価は1万9,500円から2万4,000円のレンジ相場になると予想しています。
注意したいのは、このように悪材料をどんどん織り込んでいく相場では、良くないニュースが出た際になぜか急騰したり、直後に下落に転じるといった荒っぽい値動きを繰り返す傾向があることです。
「悪材料ではあるが、マーケットが織り込んでいたほどには悪くない」といったわかりにくい根拠があったりもするのですが、こうした方向感に乏しい乱高下に振り回されないようにしたいものです。