はじめに

2018年のグローバル株式市場を振り返ると、米中貿易摩擦などに振り回され、変動の激しい1年でした。2019年はいよいよ米中貿易摩擦が実体経済に影響を与え、世界経済が失速するのではないかと投資家は身構えているようです。

そんな時は、まず株式などのリスク資産の配分が適切かどうかを振り返ってみるのがいいかもしれません。これまでもリーマン・ショックや欧州債務危機、チャイナ・ショック、英国のEU離脱決定といった経済や株式市場を大きく動揺させる出来事はあり、今後もこうした事態が起こる可能性は十分あります。

今回は、経済や株式市場に大きな動揺が生じたときでも、これまでの生活や人生設計が変わらないよう、確認しておくべきことをご紹介します。


ケインズの「美人投票」の例えで考える

まず、投資は無理のない範囲で行う必要があります。そのうえで、長期の資産運用を考えてみてはいかがでしょうか。

株価は短期的には経済動向や企業業績動向といったファンダメンタルズと乖離した動きをすることがままありますが、長期のトレンドを見るとファンダメンタルズに即した動きになっています。したがって、ファンダメンタルズを見据えた長期投資こそが株式投資の王道といえます(下図)。

しかし、長期運用を考える前に、短期ではなぜファンダメンタルズと異なった動きをしてしまうのでしょうか。これについて、現代マクロ経済学の基礎を築いたケインズの「美人投票」の例えを使って考えてみましょう。

多くの投票者に好まれる顔を言い当てると賞をもらえるという美人コンテストの場合、自分の好みと関係なく、他人が好む顔を選ぶことが勝ちにつながります。これは株式市場も同様です。短期的には株価が上がると自分が思う銘柄よりも、多くの市場参加者が上がると思っている銘柄を選ぶほうが重要であるというものです。

この「美人投票」を2018年10月から年末にかけての株式市場に当てはめると、多くの市場参加者はリスクオフを「美人」として投票したため、本当の美人(良好なファンダメンタルズ)は票を集めることができませんでした。

したがって、米国の消費の強さなどを示す経済指標が発表されても、今の「美人」の条件にそぐわないと判断され、株式を売却するという投資行動になりました。良好な経済指標や決算は株価にとってプラスに働くと一般的に言われますが、短期的に逆に動くこともあるのは、「美人」の条件がその時々で変わるといったことが影響しています。

例えば、代表的な経済指標である米国の雇用統計が予想以上に悪い数字で発表された場合、株価はどう動くのでしょうか。一般的に、株価は下がると考えます。しかし、雇用環境の悪化から景気減速が見えてきているので、中央銀行である米FRB(連邦準備理事会)が金融緩和政策をとる、あるいは利上げを打ち止めして経済のテコ入れを図ると市場関係者が考えたならば、株価は上がります。

経済指標が発表されても、その時の「美人投票」によって、どのような理屈も成り立つため、株価の反応は上下どちらの可能性もあるのです。とくに現在のようなAI(人工知能)が発達した時代の運用ということになると、1つのニュースに対して機械的に反応するため、市場の動きが買い、あるいは売りの一方向に偏りやすくなり、変動幅が大きくなりがちです。

しかも、その反応を市場の総意だと投資家が思えば、市場の動きに流されてしまう、まさに付和雷同型の市場形成になる傾向がある点は短期的な相場の特徴として押さえておきましょう。

長期で考えたときの「美人」を選ぼう

このような市場の特徴は、株式投資は予測が極めて難しくあまり関わらないほうがいいということではありません。むしろ逆だと考えます。市場は短期的に動揺しても、時間がたてばファンダメンタルズに沿った形に落ち着いていくという傾向は、過去の例から見ても明らかです。

市場の過度な反応に引きずられて株価が下がっているような銘柄については、割安で購入できるチャンスと考えるべきでしょう。多くの人が投票するであろう「美人」ではなく、流行に流されない「本物の美人」(=ファンダメンタルズ)を見極めてこそ、株式投資の成果につながるといえます。

ケインズは経済学者であるとともに、投資家でもありました。日々の金融市場の動きを予想するのは困難だと悟り、企業の本質的な価値を見極める(本物の美人を探す)アプローチで投資成果を上げました。彼は晩年、仕事仲間に送った手紙の中で株式投資において重視する点を下記のように示しているので、参考にしてみてください。

<文:投資情報部 花岡幸子 写真:ロイター/アフロ>

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