はじめに

お金をたくさん稼ぐと不幸になる?

――なるほど。「金融によってつながりを作る」というのが鎌倉投信でした。そこは変わっていないし、むしろ続きでもあるわけですね。改めて、今、新井さんにとってお金とは結局何でしょう?

私たちは、ずっと「意志あるお金は、社会を変える」ということを言い続けてきました。意志を持ってお金を活用すれば少しずつでも、社会を変えるきっかけになる。

そもそも僕はお金に苦労したから金融マンになりました。父親が事故で働けなくなり、母親も障害で思うように働けない。学生の頃からとにかく働き続けてきた。そして、投資という世界に出会い、投資を通じてお金を増やしていけば、さまざまな金融的な制約から解放される。幸せになれると思っていました。でも、どうも違った。

大金を稼ぐ経営者や個人を間近に見ても、僕から見たらですが、どうも幸せそうじゃない。なぜなら、おそらくお金を手に入れようとすると、どうしても競い合い、誰かを蹴落とさなくてはならず、「負ける人」が出るからです。

――必然的に、うらまれるような相手や敵を自ら作ってしまうということにもなりますよね。

でも、みんな本当は愛されたいし、喜ばれたい…。にもかかわらず、お金そのものがどうしても悪い方に向いてしまう。だから、お金を増やしても不幸になってしまう。お金を手に入れようとする人ほど、手に入れられなくなるものも逆に増えてしまうんですよね。

「お金は貯めるものじゃなくて使うものだ、使えばいいんだ(うらまれない)」という人もいます。でも、僕はお金ができる範囲というのは、実はすごく狭いんじゃないかと思っています。だから、難しい。

それなのに、「お金が全てだから、自分たちはこうしないといけない」とみんな思ってしまっている。だから、新しくお金を定義する。例えば、社会のためになることをしたときにお金がつき、自分のためだけにやることには、特にお金はつかない。そんな仕組みを作る。

それができれば、今世はやるべきことが出来たかな(笑)。仮想通貨のように、お金がデザインできる時代に金融マンがときめかないわけないですよ。「それをやらないで死ぬの?」とは思いますね。

新井和宏(あらい・かずひろ)
eumo代表取締役。1968年生まれ。東京理科大学卒。住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)を経て、年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。公的年金などを中心に運用業務に従事。2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに金融市場のあり方に疑問を持つように。2008年11月、鎌倉投信を創業。2018年9月eumoを設立。著書に『投資は「きれいごと」で成功する』(ダイヤモンド社)、『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『幸せな人は「お金」と「働く」を知っている』(イーストプレス)など。

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