はじめに
昨年末の急落から、緩やかではあるものの持ち直し基調にある日本株市場。しかし、そんな状況下でも、銀行株の多くは値下がりが続いています。銀行業の未来に関して、暗い話が増えているからです。
一番の問題は、低金利が長期化する中で預貸金利ザヤ(貸付金利と預金金利の差)の低下が止まらないことです。金融庁が2018年9月に出した「金融レポート」によると、地方銀行の約半数(54行)が低金利に追い詰められ、本業である貸出・手数料ビジネスが赤字に陥っています。
今のような低金利が続くと、本業が赤字の銀行の数は年々増えていくことになります。筆者は、持続可能な収益を稼いでいくメドの立たない地方銀行株には投資すべきでない、と考えています。
ただし、すべての銀行株が投資に値しないわけでもありません。過去にファンドマネージャーを25年間務めた筆者が今、積極的に投資していって良いと考えているのは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)です。
高収益なのに指標面は超低水準
2月4日に公表されたMUFGの2018年度第3四半期(4~12月期)の純利益は8,722億円と、前年同期に比べて1.0%の増加となりました。低金利下でも安定的に高収益を上げ続けています。
同社は、国内の商業銀行業こそ収益低迷が続いていますが、利ザヤの厚い海外で事業を成長させることで高収益を維持しています。海外で積極的にM&Aを実施しているほか、国内でもユニバーサルバンク(証券、信託、リースなどの多角化)経営を行うことで、毎年9,000億~1兆円台の高い純利益を上げています。
にもかかわらず、MUFGの株価バリュエーションは異常に低くなっています。PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)ともに低水準で、特にPBRは0.47倍と、「解散価値」といわれる1倍を大きく下回っています。
現在の水準は、日本が金融危機にあった1990年代の評価よりも低いバリュエーションです。不良債権に苦しんでいた当時と比べると、格段に財務内容が改善し、高い収益を上げられるようになったことを考えると、今の株価は売られ過ぎだと考えています。
株価に影を落とす「銀行不要論」
MUFG株が異常な低評価に据え置かれるのは、低金利が長期化する不安だけでなく、銀行業そのものの存在価値が問われつつあることが影響している可能性があります。
仮想通貨やキャッシュレス決済が普及するにつれて、旧来型の銀行は不要になるという見方が広がっています。さらに、ネットバンキングが広がるとともに、国内で多数の営業店舗を構える銀行の存在意義が低下していくと見られています。
ただしその見方も、現実に対してやや先走りし過ぎていると思います。一昨年まで持てはやされていたビットコインをはじめとする仮想通貨は、価格の下落に伴って人気が離散しました。新しい決済手段として期待されたわけではなく、単に投機対象として注目されていただけだったことは明らかです。
目下のところ、仮想通貨はセキュリティやマネーロンダリング(資金洗浄)対策で課題を抱えています。ハッカーからの攻撃を受けて取引所などから巨額の仮想通貨が盗難される問題が相次いで起こっています。便利ではありますが、既存の通貨と同様の安全性が確立されるまでに、まだ紆余曲折がありそうです。
キャッシュレス決済も同様です。決済事業者が普及のために何百億円ものコストをかけて体力勝負をしていますが、それでも利用が定着するか、今は正念場です。セキュリティ対策でも、これからまだまだ巨額のコストがかかりそうです。
MUFGの優位性とは?
一方、既存の銀行システムは柔軟性がなく不便といわれていますが、閉じられたシステムなので、外部からの攻撃に対する安全性は高くなります。ネットバンキングも年々セキュリティが強化されているとはいえ、現時点で既存システムをすべて代替できるまでにはなっていません。
自動車業界では将来、EV(電気自動車)がガソリン車を駆逐するといわれています。同じように、銀行業ではネットバンキングが旧来型の銀行を駆逐すると考えられています。ただし、それにはまだかなりの時間がかかります。
その間にMUFGも当然、キャッシュレス決済や仮想通貨そのものを取り扱うようになるでしょう。銀行不要論のセンチメントに乗ってMUFG株を極端な割安圏に売り込むのは、過剰反応だと思います。
<写真:ロイター/アフロ>