はじめに

米政治の混乱や企業業績などの懸念材料はあるものの、日米の株価は昨年10~12月期とは異なり、落ち着きを取り戻しています。

今回はこの背景、特に米連邦準備理事会(FRB)の政策変更について、お話しします。


FRBが行った政策変更とは

株価が落ち着きを取り戻した理由としては、米金融政策のスタンス変更が示唆されたことの影響が大きいと私は考えています。

米国の中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)は、1月30日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明で、昨年12月まで示し続けていた政策金利引き上げの意向を削除しています。そして、FOMC後の記者会見でパウエル議長は、資産縮小の停止を早める考えも示しました。

伝統的な金融政策である「政策金利の引き上げ/引き下げ」と非伝統的な政策である「資産購入/資産圧縮」、そのどちらにおいても、これまでの「引き上げ+資産圧縮」という方向性を変更する可能性が示唆されたのです(以下、この示唆を「政策変更」と記します)。

この政策変更に対しては、(1)政策目標を株価に変えた、(2)トランプ大統領の圧力に屈した等、皮肉な見方をする方もいるように思います。FRBも公権力の主体ですから、権力の暴走をチェックするため、批判的な意見があることは重要であると考えます。

しかし、経済・投資環境認識という観点からは、今回FRBは極めて適切な判断をしたと私は考えています。

今回の政策変更は何が“適切”だったのか

1つは、政策変更のタイミングです。実は政策変更は、「FRBは市場が織り込む水準よりも実際はもっと景気が悪いという認識を持っている」と市場が解釈してしまい、株価のマイナス要因になる可能性もありました。また、トランプ大統領のFRB批判発言があったため、政策変更は中央銀行の独立性に対する疑義を生み、長期金利の上昇を招く可能性もありました。

仮に、今回の政策変更が昨年の10~12月期に行われていた場合、上記のような株価下落+金利上昇に陥る可能性が十分にあったと私は考えていますが、今年の1月まで我慢強く待ったこともあり、政策変更は市場に大きな悪影響を与えませんでした。これは素晴らしい成果と評価するべきと私は考えます。

もう1つは、政策変更自体への評価です。非伝統的な金融政策が採用されたとき、非伝統的金融政策の出口、即ちその終了は大きな困難を伴うという見方・批判がありました。

例としては、出口政策は景気が好調でインフレが懸念される局面、すなわち長期金利が上昇しやすい状況で実施されます。そして、政策金利を引き上げると長期金利も上昇しやすく、資産圧縮も国債の需給に影響を与え、長期金利が跳ね上がるという考え方です。

今後、直ぐにではないにしろ政策金利が引き下げに向かうのであれば、出口政策が完了したと考えることもできます。それにもかかわらず、米10年国債金利は2%台後半で安定しており、懸念された長期金利の上昇は発生していません。これは、FRBが困難といわれた出口政策をやり遂げたという評価も可能であると考えます。

今後注目すべきは不動産市場

それでは、この政策変更は今後市場にどのような影響を与えるのでしょうか。FRBは政策金利であるFFレートの誘導水準レンジを、前回利下げ時の最も低い水準であった「0.00~0.25%」から「2.25~2.50%」まで引き上げることに成功しています。

今後、仮に緩和的な金融政策が必要になったとした場合、「2.25%、1回あたり0.25%の引き下げと仮定すると合計9回」の引き下げ余地を確保したことになり、仮に景気が後退局面に入ったとしても、引き下げによる政策対応余地があります。

今回のことを契機として、米国以外の「これまで金融政策正常化が意識されていた国など」においても、正常化が一層緩やかになる、もしくは停止される可能性を市場は意識し始めるかもしれません。

これは、米国で緩和方向への金融政策変更が起こった場合に、仮に他の国で正常化・引き締め方向の金融政策を継続した場合、為替が米ドル安・自国通貨高になる可能性を回避することが考慮される可能性があるためです(なお、オーストラリア準備銀行のロウ総裁は2月6日講演で従来比では利下げの可能性が高まったことを示唆しました。インド準備銀行は2月7日政策金利を0.25%引き下げると決定し即日実施しました。)。

通常、金融政策が緩和的に変更された場合、他の要因が変化しなければ不動産価格の上昇要因になると思われます。実際に日本、米国、豪州のREIT市場は、2018年後半に調整局面に入ったもののその後の反発が顕著で、直近は過去1年の高値近辺にあります。

今後のREIT市場の動向にも注目したいと考えます。

<文:チーフ・グローバル・ストラテジスト 柏原延行 写真:ロイター/アフロ>

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