はじめに
共通事業所ベースの数字を公開しないワケ
2018年(速報値段階)の名目賃金(現金給与総額)は前年比+1.4%です。ボーナス(特別に支払われた給与)が同+3.7%と大きく伸びました。従来の公表値では、名目賃金は+1.7%でした。抽出率の復元の影響は▲0.3%だったということです。
2017年と2018年の月次ベースだけ、共通事業所ベースの名目賃金の前年同月比が発表されています。1~12月の前年同月比の単純平均を計算すると、2017年は+0.9%、2018年は+0.8%となります。
一方、公表ベースの名目賃金の1~12月分の前年同月比の平均値は、2017年では+0.5%、2018年は+1.3%です。共通事業所ベースとの差では2018年は0.5%程度高めに出ていますが、逆に2017年は0.4%程度低めに出ていたことになります。
名目賃金を消費者物価指数でデフレート(インフレ率を考慮して算出)した実質賃金は、2018年前年比+0.2%と2年ぶりにプラスになりました。国会では、野党が「この数字がもっと低いはずだ」として共通事業所ベースの数字を要求していますが、公表はされていません。
サンプル数が少ない共通事業所の数字が真の数字との誤解を与えることを避けるためでもあるのでしょう。共通事業所ベースの数字は蓄積期間が非常に短いものです。
不運にも重なった“2つの偶然”
もし、共通事業所ベースの数字があったとすれば、名目賃金ベースの共通事業所ベースとの差が約0.5ポイントであることを考慮して、前年比はマイナスになるのでしょう。
しかし、2017年の実質賃金は前年比▲0.2%とマイナスでしたが、名目ベースの差の約0.4ポイントを考慮すれば、実はプラスだったとなります。2017年はアベノミクスの成果を過少に評価していたことになりますが、この話はなぜか誰もしません。
なお、2018年1月の標本交替では、サンプルの入れ替えの影響はローテーション・サンプリングの導入により、従来の交替期に比べて小さくなりました。にもかかわらず、2018年の数字が大きく出たのは、事業所規模別労働者構成の変化(5~29人の事業所の割合が他の区分に比べて低下)というベンチマーク更新の影響が大きく作用しています。
これは、5年ごとに実施される「経済センサス-基礎調査」の結果が利用できるタイミングに、たまたま当たったためです。6年間の構造変化の蓄積が一気に出た形です。
日雇い労働者が2018年1月から外れたことも「恣意的なものだ」との批判もありますが、これは統計ごとの比較可能性向上のため、2015年5月の総務省「統計調査における労働者の区分等に関するガイドライン」に基づいて行われたものです。
日々雇用で前2ヵ月それぞれ18日以上働いた人を「常用雇用者」に含めていたものを、簡素化・明確化のため、日々雇用はすべて「臨時労働者」にしたのです。これもたまたま、2018年1月の標本交替時期に重なってしまいました。
事態をわかりにくくする“2つのCPI”
なお、実質賃金を計算する消費者物価指数は、日本銀行が金融政策の目標とする「生鮮食品を除く総合」(コアCPI)ではありません。「持家の帰属家賃を除く総合」という消費者物価指数で、生鮮食品が入ったものです。
2017年のコアCPIは+0.5%、持家の帰属家賃を除く総合は+0.6%であまり差はありませんでしたが、2018年のコアCPIは+0.9%、持家の帰属家賃を除く総合は+1.2%と、0.3ポイントも違いがありました。
大雪や台風などの影響から生鮮野菜が高く、持家の帰属家賃を除く総合は2018年1月、2月、10月分で1%台後半の高い伸び率になったためです。コアCPIが最高でも+1.0%(2月、9月、10月)だったことと大きく異なります。2018年は自然災害による生鮮野菜の上昇が実質賃金の上昇を抑制したといえます。