はじめに
「少子化で日本が貧乏になる」がまったく理解できない中国人妻
――月さんのキャラがいいですね。ページをめくるたびに、「えっ、そんなこと言っちゃうの」という驚きがあります。
この中で書かれている会話は、すべて実際に行われたものなんです。まさに、月さんがいなければ、書けなかったマンガ。自分の意見や主張にばかり偏りそうな時も、月さんがフラットな存在だから、そうならずにすんだ。でも、だからこそ、まとめるのが大変な回や、用意した結論を月さんが最初に言っちゃう回などもありました。
経済について興味も知識もほとんどないのに、偉い政治家ですらわかっていないような問題の結論を、会話の一番最初に言っちゃったりする。そういうときは、「ダメだ。これでは当初予定していた展開ではマンガにできない」と頭を抱えました。
――彼女はお金のことがまったく分からない読者の代表にもなってくれますし、中国で育っているから、日本の経済を外からも見てくれる存在としても活躍してくれます。
そうなんです。月さんは僕の想定外のことをいうから、本当に面白い。たとえば彼女には、日本人の多くが信じている「少子化になると、日本の経済はどんどん縮小する」という話が理解できない。
中国も少子化が進むと言われていますが、中国の人たちは自分たちが経済的に縮小する運命だとは、まったく思っていません。月さんも、強がりではなく、ナチュラルにそう思っているから、日本人がなぜ経済の縮小は避けられないと思い込んでいるかわからないんです。
加えて月さんは、すごく貧乏だった中国が経済成長するのを自分自身が育つ過程で体験している世代。なので、“経済成長はしなくてもいい”という日本人の言説に対しても「なにそれ？」という感覚なんです。
それに、飯田先生によると、少子化と経済の後退には、基本的に関係がない。人口の変化率と経済成長率を比較すると両者の間にはほとんど相関性がないんだそうです。もちろん違う論拠を持つ方もおられると思いますが、何を言いたいかというと、日本の経済が必ず縮小していくかどうかというのは、専門家の間でも異論があるんですよね。なのに、なぜ専門家でもない人が断言するのだろうと思ってしまいます。
どちらかというと、みんなが縮小する思っていると、本当に縮小してしまうという性質があるのが経済。全員がそう思うとそうなる、経済の面白いところです。景気の“景”の字は、みんなの心の中の景色の“景”。
だから、社会全体がどんどん萎んでいる理由を「日本は人口が減っていくから縮小するのが当たり前だ」と思うのは、とてもよくないと思います。自分のついたウソを、自分で信じ込んでいるようなものです。
