はじめに
昨年12月25日配信の記事で、外国人が容疑者もしくは刑事被告人になった場合に動員される「司法通訳」について取り上げました。
少しおさらいをすると、これまでの報道では「負担が重い割に報酬が低いので、なり手が少なく、レベルも上がらない」とされてきました。しかし、司法通訳団体の代表は既存の報道内容を全面的に否定。「負担が重いのは能力が不足しているからで、稼ぐ人は月額90万円の報酬を得ている」とぶちまけます。
そこで、実際のところはどうなっているのか、司法通訳の雇い主に直接取材を敢行。その回答から浮かび上がった、司法通訳の実態をご紹介します。
「母国語の能力の低い人に仕事が集中」
司法通訳人の技能と地位の向上を目的として活動している、一般社団法人・日本司法通訳士連合会(JLIA)。その代表理事を務める天海浪漫さんは、冒頭のような既存の報道内容に真向から異論を唱え、次のように主張します。
- 負担が重いのは能力が不足しているためである。
- 報酬体系が不明確。問い合わせても裁判所は答えない。
- 仕事がもらえるのは、雇い主である裁判所や警察の通訳の人選担当者に対する高い営業力を持つ、ごく一部の人である。
- 母国語のレベルを人選担当者が判断できないので、日本語は堪能でも、母国語の能力が低い人ばかりが仕事をもらうことになり、問題になっている。
- 特定の人に仕事が集中するので、稼ぐ人は能力に関係なく1ヵ月に90万円くらい稼いでいる。
司法通訳には、弁護士の接見の際に弁護士に雇われる「弁護通訳」、警察や検察での取り調べの際に雇われる「捜査通訳」、そして裁判の場で裁判所に雇われる「法廷通訳」の3種類があります。それぞれに登録制度があって、基本的に登録名簿に載っている人の中から選ばれています。
司法通訳の報酬は、弁護通訳のうち弁護士や弁護士会が負担するケースを除けば、税金で賄われています。にもかかわらず、そんな不透明な運用がされているとすれば、問題です。
そこで、税金で司法通訳の報酬が賄われているケースのうち、ホームページ上で報酬規定を明記している「法テラス」(資金力がなく弁護士を自力で付けられない容疑者・刑事被告人でも弁護士を付けられるための支援をする機関)を除く、東京地裁、東京地検、警視庁に対し、報酬規定の有無や天海氏らの主張に対する反論を聞いてみました。
検察・警察・裁判所で三者三様の運用
まず、東京地検は全面取材拒否です。
次に警視庁ですが、報酬は時給8,000円で、交通費の別途支給はありません。この額は法テラスと同じです。民間企業や他官庁と比較しながら、都に予算請求をしているそうです。神奈川県警が神奈川県の組織であるように、警視庁は東京都の組織だから、予算請求先は東京都なのです。
警視庁の捜査通訳の名簿に登録されている人は現在約200人いて、中国語が約50人、ベトナム語が30人、英語が20人、その他の言語(ネパール語、韓国語、スペイン語、タガログ語など)が100人だそうです。
最後に東京地裁です。報酬の根拠法は「刑事訴訟法」です。173条で「鑑定人は、旅費、日当及び宿泊費の外、鑑定料を請求し、及び鑑定に必要な費用の支払又は償還を受けることができる」という規定があり、178条で「通訳及び翻訳についてこれを準用する」と定めています。
しかし残念ながら、金額については明確な基準がありません。「刑事訴訟費用等に関する法律」の7条では「鑑定人、通訳人又は翻訳人に支給すべき鑑定料、通訳料又は翻訳料及び支払い、又は償還すべき費用の額は、裁判所が相当と認めるところによる」としています。