はじめに

都内某所。二子玉川ライズに壮大な本社ビルを構える楽天の関連施設とは思えないほど、何の変哲もないビルの中に、お目当ての施設がありました。

今年10月からの“第4の携帯キャリア”としてサービスを開始する、楽天グループの楽天モバイルネットワーク。同社が2月20日に公開したこのビルの中には、最後発から巻き返しを狙うための秘密兵器が配備されているのです。

現在、料金もサービスも画一化している携帯業界。楽天の参入によって新たな競争が生まれ、ユーザーにとって、より安く、より使いやすい環境が整うのでしょうか。グループの総帥、三木谷浩史・会長兼社長も出席した内覧会から、巻き返し戦略を解き明かしてみます。


コスト減を可能にする「仮想化ネットワーク」

ビルの中に所狭しと並ぶ、たくさんのサーバー。このサーバーを中心に、自社で構築した商用の仮想化ネットワークを再現し、動作を検証するのが、この「楽天クラウドイノベーションラボ」の設立目的です。

 仮想化ネットワークを支えるサーバーがずらりと並ぶ
仮想化ネットワークを支えるサーバーがずらりと並ぶ

これまで同社は、NTTドコモなどの大手キャリアから回線や基地局、アンテナを借りて格安SIMを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)として事業を展開してきました。しかし、今年10月からはドコモ、au、ソフトバンクに続く“第4の携帯キャリア”として、新たに携帯キャリアサービス事業を開始する予定です。

これに伴って必要になるのが、自社で構築・運営する通信ネットワーク。全国をカバーするには、基地局のアンテナ以外にも、通信を制御したり、インターネットにつなげるための数多くの専用機器(ハードウエア)を設置するほか、専用のソフトウエアも搭載しなければなりません。つまり、携帯キャリア事業の設備投資には、かなりのコストがかかるわけです。

そこで、先行する3社に食い込むべく、後発の楽天が打ち出したのが、前述した「仮想化ネットワーク」でした。専用機器ではなく、汎用のサーバー(ハードウエア)を使用。さらに、そのクラウド上に各種専用機器が持つ機能を再現したソフトウエアを置く。つまり、あえてハードとソフトを切り離し、ソフトで通信ネットワークを一元管理するという方法です。

仮想化ネットワークの概念図
仮想化ネットワークの概念図

新しい機能を追加したり、メンテナンス・検証をする場合、これまでのように専用機器の1つ1つを置き換える必要はなく、クラウド上でソフトウエアの書き換えをするだけで機器のアップデートができます。そのため、お金も時間も運用コストが大幅に下げられるのです。

次世代通信規格5Gにも、クラウド上のソフトウエアのアップデートで対応可能。今後は、今回公開されたラボで、実際のサービス運用時と同じ環境を再現して試験を重ね、残り1年を切った事業開始に備えます。

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