はじめに

ユーザーにとってのメリットは?

内覧会と同時に行われた記者会見で三木谷社長は、楽天がこうした形で参入することによる消費者・ユーザーのメリットとして、「携帯利用料の引き下げ、通信スピードの向上、ポイントサービスを含め、楽天グループの他事業と連携したサービス」を挙げました。

他のキャリア各社も仮想化を進めていますが、まだ一部設備のみ。各社とも、通信の維持・向上のために年間3,000億~6,000億円を投資しているといいます。これに対し、楽天は核となるネットワークを完全仮想化することで、10年間ほどの設備投資費を他社の年間投資額程度の6,000億円以下に抑えられる、という見通しを示しています。

三木谷社長は「楽天を始めた22年前当時、サーバーは1つ8億円。そんな高額のサーバーでしかできなかったことが、今は20万円のパソコンでできる。ネットの世界は完全にクラウドベースに移っている。通信会社だけが遅れている」と指摘しました。

楽天キャリア事業の中核人物たち
左から楽天モバイルネットワークの山田善久社長、シスコシステムズの中川いち朗副社長、楽天の三木谷浩史社長、テック・マヒンドラのマニシュ・バヤスCEO、楽天モバイルネットワークのタレック・アミンCTO

「NetflixのようなIT企業は、動画サービスを提供するため、毎日何千回とアップデートを行っている。携帯電話事業者になぜそれができないのでしょうか」

同席した楽天モバイルネットワークのタレック・アミンCTO(最高技術責任者)も、このように仮想化ネットワークの確実性と将来性をアピール。ヒューマンエラーをなくし、さらなるコストカットを見込んで、ソフトの更新など監視システムの自動化も急ピッチで進めているとしました。

仮想化だからこそのリスク

とはいえ、専用機器ではなく、あえて汎用サーバーやクラウドを使い、管理を自動化・一元化するからこその危険性はないのでしょうか。

思い起こされるのは、まさに後発で参入したソフトバンクで発生した、昨年の大規模な通信障害です。同社の場合、コスト対策の一環として1社にハードウエアを依存したことによるパケット交換機のソフトウエアの不具合が、通信障害の原因でした。

 サーバールームから制御された基地局設備
サーバールームから制御された基地局設備

楽天モバイルネットワーク・ネットワーク本部の岩瀬学部長は「ヒューマンエラーがある一方で、ソフトウエアのバグのようにマシンも完璧ではない。どこかで防御線を張っていないといけません」と説明します。

ただし、「通信障害の対策としては、やはり仮想化でカバーできるはず。Aサーバーがダウンしたとしても、Bサーバーで補う。どこかで問題が発生しても、どこかで補うシステムになっています」と付け加えます。

サービス開始時点での自社エリアは、東京23区、名古屋市、大阪市が中心。自社エリア以外はローミングでカバーするということです。ネット通販、金融に加えて、通信事業にも踏む込むことで、「楽天経済圏」の拡大が大いに予想されます。

しかし、通信は社会インフラの根幹。これまでの事業とはまた違う、慎重さが求められます。既存事業で培ってきたノウハウに、いかに最新の知見を組み合わせていくのか。これまでと比べ物にならないほど多くの視線が、楽天の一挙手一投足に注がれることになります。

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