はじめに
グローバルの株式市場では、悲観からの揺り戻しが続き、足元にかけて堅調な展開を見せています。1月の連邦公開市場委員会(FOMC)における当面の利上げ見送り決定や、米中貿易交渉の進展期待、さらには、決算発表の無難な通過などが相場回復を後押ししたと考えられます。
日本の年度末が控える3月に入り、世界の株式市場はこのまま好調を維持するのでしょうか。米国、欧州、中国、そして日本と、順を追って状況を確認してみましょう。
米企業決算通過で強さ目立つ米国株
年明け以降の主要国の株価指数について見ると、改めて気づくのは米国株の強さです。貿易問題に揺れながらも、金融当局からハト派スタンスへの転換が示されたことがポジティブな影響をもたらした模様です。
発表が一巡した米企業の2018年10~12月期決算は、前年同期比で16%超の増益で着地する見込みです(S&P500ベース)。7~9月期が同28.4%増益であったことを踏まえると、やや物足りない結果に終わったことは否めません。減税効果が残る10~12月期の増益率は、本来なら20%を超えても不思議ではなく、そうした面からも実際の業績は急減速のイメージです。
それでも、市場に悲観色が広がっていないのは、想定を超えるほどの業績悪化が確認されなかったためと考えられます。年初のハイテク大手による業績下方修正の発表から、今回の決算に対する市場の警戒感はそれなりに強かったと見られますが、結果は概ね想定の範囲内で、ネガティブ・サプライズを誘発する状況は回避されたと判断されます。
今回の決算では、特定企業の業績不安が株式市場全体を揺るがすような「○○ショック」は起きなかったという理解です。懸案とされてきた企業決算をほとんどダメージのないかたちで切り抜けた株式市場の前には、再び米中貿易問題が横たわりますが、こちらも事態打開に向けて、明るい兆しが見えつつあります。
年明けから続く交渉の結果、相互に妥協点を見出す取り組みは奏功している模様で、最終的な合意に至る公算は強まっています。当初設定された3月1日の交渉期限は延長されることとなりましたが、あくまでもそれは前向きな期限延長との位置付けで、近い将来に円満な決着が期待されます。
2018年の株式相場の重石になってきたこの問題が解決されることで、マクロの景気、ミクロの企業業績それぞれに対する不安感は大きく後退することになるでしょう。そうなれば、米国株は再び高値更新に向けた道筋が鮮明になると予想されます。
EU離脱問題で大モメでも英国株は上昇
他方、英国株について興味深いのは、年初来のパフォーマンスが意外にも堅調を保っている点です。英国ではEU離脱期限の延期が視野に入り、問題の先送りが好感されている模様です。英国のEU離脱の議論は、3月29日の離脱期限を目前に控える現状でも、ほとんど進展を見せていません。
英国内で離脱派と残留派、離脱派の中でも強硬派と穏健派が激しく対立し、どちらかというと混迷を深めている状況です。それに対して、市場が株価上昇というかたちで反応しているのは、矛盾以外の何物でもありません。一体、市場はどのような展開となることを織り込んでいるのでしょうか。
英議会はEUとの間でまとめた離脱協定案を可決するには至っておらず、このまま3月29日を迎えれば、英国は「合意なき離脱」を強いられることになります。しかし、意見を対立させる英議会では、「合意なき離脱」だけは避けたいとの考えが大勢を占めており、必死に他の選択肢を探っています。
限られた選択肢として挙げられるのは、(1)EU側との離脱協定案の再調整(EU側はこれを拒否)、(2)離脱の是非を問う2回目の国民投票実施、(3)メイ首相に退陣を迫る議会の解散・総選挙、くらいでしょう。そして、もともと離脱延期には否定的だった英メイ首相も遂には、それを可能性の一つとして認めました。
市場が見透かしているのは、紆余曲折はあろうとも最終的には「合意あり離脱」で決着に至るという展開でしょう。さらに、一度期限が延期されれば、なし崩し的に期限延期が繰り返される可能性も高まります(直近の決定では離脱期限が延長されたとしても、最長で6月末までの1回限りの措置とされています)。
いずれにしても、問題の先送りは、すぐにはリスクが顕在化しないことを意味するため、市場には好都合と映ります。この見方が正しければ、英国のEU離脱を巡る問題は、もはやそこまで驚異的なリスクとは言えなくなってきているのかも知れません。
改善傾向が見えつつある中国株
中国に関しては、米中貿易問題が少しずつ決着に向かいつつあることを好感して、株価は改善傾向を示しています。10倍を割り込む水準まで低下した予想PER(12ヵ月先予想、上海A株ベース)は、足元で11倍台を回復しています。中国の実体経済が復調するには、もうしばらく時間がかかりそうですが、なりふり構わぬ政策の総動員が、いずれ景気下支えに寄与してくると予想されます。
加えて、懸案の米中との対立がいったん収束に向かうことで、その傾向はより強まるとも考えられます。予想PERが11倍台を回復したとはいえ、他市場との比較では、まだ大きく水を空けられている状態です。
依然として中国景気の回復には予断を許さないものの、回復を先取りした株価の上昇はしばらく継続する可能性もあります。中国株をはじめ、周辺のエマージング株に、投資妙味が高まりつつあるとの見方は変わりません。