はじめに

日本中が歓喜に湧いた、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催決定。あれから6年の歳月が流れ、いよいよ実際の開催まで残すところ1年となりました。

実は、同じ2020年には、東京オリンピックの裏でもう1つの五輪が開かれます。ドイツで開催される世界最高峰の料理界のオリンピック「2020 ドイツ料理オリンピック」(通称IKA)です。

この大会には、日本代表としてフルーツカービングの個人部門に石川幸子さんが出場します。フルーツカービングとはどんなもので、選手はどうやって生計を立てているのでしょうか。知られざるフルーツカービングの世界を、石川選手に聞きました。


フルーツカービングとはどんなもの?

私が経営するフルーツギフトショップでもコンテンツの1つとして提供をしている、フルーツカービング。ナイフ1本だけを使って、果物を美しく彫刻をするアートの一種です。もともとはタイの伝統文化だったのですが、近年のSNSの普及により、世界中でその美しさが注目されるようになりました。

石川選手はこのフルーツカービングのスペシャリスト。世界各地の大会に出場し、数多くの金メダルを獲得してきました。今では、ヨーロッパやアジアをはじめとした世界各国に作品を提供したり、出張レッスンを行うほか、世界大会にも参加し続けています。

仕事はほぼすべて、オンライン経由でのインバウンドで受注しています。顧客がSNSでカービングの画像をアップすると、見慣れぬフルーツアートに歓声が上がり、それが新たなオーダーにつながっているといいます。

彼女の主な顧客は、世界的ブランドメーカーや有名芸能人、富裕層などが中心。用途は芸能人への誕生祝いや舞台公演のお祝いといった贈答用のほか、企業のパーティーなどでウェルカムボード代わりに用いられています。

還暦祝い
還暦祝いのフルーツカービング作品

特に芸能界は、顔を売ってナンボの世界。個人間のお付き合いの上に成り立つ信頼は、仕事上の関係づくりにとても重要です。贈答用のフルーツカービングは大きなインパクトを与えるとともに、記憶に残り特別感のある贈り物として信用醸成のアイテムとして機能しているのです。

カービング選手のマネー事情はどうなのか

気になるのは、フルーツカービングの選手がどうやって生計を立てているか、です。

石川選手によると、フルーツカービングのビジネスから得られる収入は、フルーツカービングの作品提供、カービング教室のレッスン代、技術提供のコンサルフィー、世界大会の賞金などがあるといいます。

人力でフルーツを彫るわけですから、ほとんどコストがかかっていないイメージがありますが、実はそうではありません。

たとえば、カービングを彫るためのフルーツ代が製造原価になります。フルーツに彫刻を施すという特性上、やり直しは一切効きません。失敗してしまった場合はフルーツ1玉分の費用が追加で発生しますし、彫刻時間も自分の肩にのしかかります。

また、商品として仕上げるカービングのほかに、新たな商品開発のためにもフルーツの調達が必須となります。さらに、上客へ納品するカービングフルーツは、形や色合いがきれいで、彫りやすく、作業の途中で割れてしまわないものを入手する必要があります。

石川選手は秋季・冬季に私が経営するフルーツショップからスイカを購入されることがあります。スイカの流通量の少ない時期に割高なフルーツを入手しなければいけない苦労があるといいます。

“もう1つの五輪”の費用対効果

他の大会と異なり、IKAは出場して勝利を収めても賞金は出ず、メダル授与のみとなります。しかしながら、出場の際してのコストは安くありません。エントリー費、練習のための材料費、渡航費用、滞在費用、現地での材料調達費用などが必要なため、ざっくり60万~70万円程度の費用がかかってしまいます。

そのため、IKAについては金銭的な面で直接のメリットはありません。しかし、ことブランディング効果についてはかなりのもの、と石川選手は言います。

「国内外の多くのオリンピック関係者との関わりや経験は、何より大きな価値となります。また、上位賞を獲得した場合には、メディアの露出などによる知名度やブランディングによって将来顧客が見込めるので、出場する価値があるのです」

IKAは1900年にドイツで開催されて以来、100年以上の歴史がある料理界のオリンピック。2020年にはスポーツの世界はもちろん、料理の世界でも日本が誇る匠の技で世界を魅了してもらいたいものです。

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