はじめに

「科創板(technology innovation board:科学イノベーションボード)」をご存知でしょうか。「科創板」とは、上海証券取引所に設立予定のハイテク新興企業に特化した新市場です。

2018年11月に中国の習近平・国家主席が上海で開催された「第1回中国国際輸入博覧会」で行った基調講演の中で初めて「科創板」の創設構想について言及し、以降、中国国内で注目度が高まっています。


中国・香港市場で注目度が高い「科創板」

「科創板」については、冒頭の習主席の言及に始まり、2019年3月5日から開幕した「全国人民代表大会(日本の国会に相当)」で李克強・首相が行った「政府活動報告」のなかにも盛り込まれました。

その主要な目的は、これまで米国や香港市場に奪われる形となっている中国の「ユニコーン」企業や有力なイノベーション企業を国内市場に取り込む事にあると見られています。

そのため「科創板」では従来の「認可制」とは異なり、米ナスダックのような「登録制」が中国市場で初めて採用される予定です。さらに、既存市場に比べて上場基準も緩和され、公開時に黒字である必要もなくなりました。

図1

中国・香港市場では最近、「科創板」に対する注目度が高まっている事から、中国系メディアはその準備状況を逐一報じています。現時点で設立準備は順調に進展している事から、早ければ2019年6月にIPO第一陣が始動する見込みと、中国系メディアは報じています。

仮に予定通りに「科創板」がスタートすれば、中国のハイテクベンチャーブームは当面続くと見込まれており、それは株式市場全体の活況に繋がるとの指摘もあります。

思惑買いが先行し、関連銘柄は足元急騰

この「科創板」の注目度の高さは、関連すると見られている銘柄の株価急騰からも見て取れます。

中国の大手オンライン医療サービスを手掛けるユニコーン企業の「微医集団(ウィー・ドクター)」は2019年3月上旬に「科創板」への上場を目指している事を明らかにしました。「ウィー・ドクター」はテンセント系の企業で、2,700の病院や22万人の医師と提携。スマホを使った健康相談や医薬品の販売などが主な事業で、直近の評価額は55億ドル(およそ6,200億円)に達しています。

この発表を受けて競合他社の中国平安保険(2318.HK)傘下で医療仲介サービスなどを手掛ける香港上場企業の「平安健康医療科技(1833.HK)」やアリババ傘下の医療ITサービス企業の「阿里健康(0241.HK)」なども思惑買いから株価が動意付きました。

また、新興の製薬会社「上海復旦張江バイオ(1349.HK)」は2019年3月8日にA株を「科創板」に上場する計画を発表。これが材料視されて同社の株価は26%以上上昇しました。

また、中国本土市場ではさらに幅広い銘柄に思惑買いが広がっています。例えば、上海A株上場で中国共産党系のネットメディアを運営する「人民網:603000.SS」、や中国国営の通信社「新華社」が運営する「新華網:603888.SS」などです。

これらのネットメディア企業や、新興企業向けの施設販売・賃貸のほか、創業支援や投融資なども手掛ける不動産企業の「上海市北高新:600604.SS」などは、関連銘柄としての思惑買いから、足元で株価は急騰しています。

「科創板」導入は既存ハイテク新興銘柄に追い風

ハイテクベンチャー誘致という観点から見れば、中国本土の深センにはすでにベンチャー市場の「創業板」が存在していますので、上海市場に新たなハイテク新興企業専用ボードができる事で競争が激化するという側面はあります。それは中国のハイテク企業誘致に注力している香港証券取引所も同じです。

ただ、中国本土や香港市場で、これまで株価が低迷してきた既存ハイテク新興銘柄の再評価という観点からみれば、上海市場の「科創板」のスタートは株価反転の起爆剤の役割を担う可能性もあると思われます。

また、香港証券取引所も今後、ストック・コネクトを通じて「科創板」へのアクセスを中国本土側に提案する計画ですので、将来的には海外個人投資家も直接投資できる日が来る可能性もあると思います。

こうした点から、「科創板」の今後の行方は注目に値すると見ています。

図2

<文:市場情報部 佐藤一樹 写真:ロイター/アフロ>

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