はじめに

ルカ・パチョーリとレオナルド・ダ・ヴィンチ

では、ルカ・パチョーリとはどんな人物だったのでしょう?

彼は数学者であり、修道士、奇術師、裕福な毛皮商人の家庭教師として働いたこともありました。ダ・ヴィンチに負けず劣らずの万能人ですね。ルネサンスの時代には、こういうマルチな才能の持ち主がけっこうたくさんいます。『スムマ』の出版時、パチョーリは49歳でした。

『スムマ』が出版された頃、ミラノでは一人の技師が算術と遠近法を研究していました。その人は刊行後すぐに『スムマ』を入手し、ルカ・パチョーリをミラノへと呼び寄せます。その技師こそ、レオナルド・ダ・ヴィンチでした。

1496年、ミラノのスフォルツァ城で2人は出会います。

ともに数学や幾何学に興味を持つ者同士、きっとすぐに意気投合したことでしょう。ダ・ヴィンチが1450年頃に残した「やるべきことリスト」には、「ルカ先生に掛け算を基本から学ぶこと」と書かれているそうです。ダ・ヴィンチにとっては、いつか直接会ってみたい憧れの人だったのかもしれません。

パチョーリと面会したころ、ダ・ヴィンチはサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会から依頼された仕事に取りかかっていました。教会の食堂に、壁画を描いてほしいと依頼されたのです。そう、みなさんもご存じの『最後の晩餐』です。

ダ・ヴィンチは遠近法、明暗法、解剖学など、科学的な知識を総動員してこの大作を仕上げました。遠近法には数学的な知識が欠かせません。当時のダ・ヴィンチはパチョーリの著作で算術を学んでいましたし、パチョーリ本人から遠近法について助言をもらっていたそうです。

芸術の世界を変えた天才レオナルド・ダ・ヴィンチの背後には、商売の世界を変えたもう一人の天才がいました。ルカ・パチョーリとレオナルド・ダ・ヴィンチは、いったいどんな会話を楽しんだのか──。

思いを馳せるとわくわくドキドキするのは、私だけでしょうか?

■参考文献■
主要参考文献:『バランスシートで読みとく世界経済史』ジェーン・グリーソン・ホワイト(2014年)日経BP社
[1]『金融の世界史』板谷敏彦(2013年)新潮選書p99
[2]『近代会計史入門』中野常男、清水泰洋(2014年)同門舘出版p133

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