はじめに
きっかけを与えて取引の活性化を狙う
SMBC日興証券がこのサービスを開発した狙いはどこにあるのでしょうか。同社の坂本昌史常務は「多くのオンライン証券が共通して抱える問題である“取引の活性化”」を挙げます。
オンライン取引の特徴は、自分で手続きを行う代わりに手数料が割安なことや、始める取っ掛かりの手軽さにあります。それだけに、試しに1銘柄を買ってみたものの、すぐに興味を失い取引をやめてしまったり、初心者で情報もあまり持っていないので、それ以上は買わないという人も少なくありません。
同社の調べによると、ダイレクトコースを利用する約20万ユーザーも、約半数が1銘柄しか保有していませんでした。「株式を保有しているものの、何をすればいいか、わからない。あるいは、売買のタイミングがわからず、塩漬けにしてしまっているユーザーが多い」(坂本常務)。
そこでAIによる提案をきっかけに、こうした顧客に株取引に積極的になってもらうきっかけを与え、取引数の増加や新規顧客増につなげたいというわけです。
AIで値動きを予測することができるのか
サービスを共同開発したHEROZは、将棋ソフトで知られてきたAIベンチャー。名人位をもつ将棋のプロに勝利した将棋ソフト「Ponanza(ポナンザ)」の開発者をリードエンジニアとして抱えています。なおかつ、同社は2017年にマネックス証券と提携したほか、竹中工務店と共同開発をするなど、他業界への進出を積極的に進めています。
ディープラーニング(深層学習)を含めた機械学習によって、大量のデータから反復学習し、自らその事象の特徴をつかみ、法則化・自動化するのがAIの強みです。
将棋などは基本のルールは決まっている分、パターン解析をすればするほど規則性は固まり、消去法で最適解を見つける確率も上がります。したがって、人間より大量データの処理が得意なコンピュータには非常に向いているように感じます。
左から、SMBC日興証券の丸山真志ダイレクトチャネル事業部長、坂本昌史常務、HEROZの林隆弘代表、浅原大輔CFO
では、株式相場はどうなのでしょうか。市場には、論理的には説明できないアノマリー(経験則)があったり、天災などによって株価が大きく動くこともあり、将棋よりも規則性の発見が難しそうに映ります。開発の際、こうした難しさはどう克服したのでしょうか。
HEROZの浅原大輔取締役CFO(最高財務責任者)は「確かに、学習が足りないうちは値下がりするところを値上がりと判断してしまう。しかし、そういったノイズも学習するほどに解消される」と説明します。AIの判定モデルは、年に数回更新されるとのことです。
AIはあくまでもサポート役
AIから提案されるお勧めの銘柄は、(1)期待収益が思わしくない銘柄を売却、(2)売却した資金と追加資金で購入できる銘柄の中から、期待収益が好ましい銘柄をポートフォリオに組み入れる、(3)リスク許容度の範囲の中でリスクが低下し、期待収益が向上する組み合わせを探す、というロジックになっています。
SMBC日興証券の推奨銘柄の情報は特に考慮しておらず、あくまで、決算データや株価データを学習させた株価予測AIを用いて、ポートフォリオの改善が見込める銘柄を提案しているそうです。提案された推奨銘柄をクリックすると、「日興イージートレード」の銘柄詳細情報のページに飛ぶ仕様になっています。
低リスクを求める人が、ある銘柄を推奨された場合、「なぜ、この銘柄は低リスク(の人に合う)なのか」など、診断の具体的な理由までは特に表示されません。自分でもしっかりと銘柄に関する情報を読み込む必要は、やはりあるでしょう。
株取引で失敗しないコツは、人から勧められただけのものや自分にわからないものを買わないことだと、よく言われます。自分では気づかない情報に目を向けさせてくれるなど、判断をサポートしてもらう存在として上手にAIを活用したいものです。