はじめに

2019年は、いくつかのアジア新興国で実施される選挙が注目されています。そのうち、すでに3月24日に、タイで下院総選挙が実施されました。実施前の最大の注目ポイントは、現在の暫定軍事政権から民政に移管させることができるか、という点でした。

現時点ではまだ最終結果は確定していないものの、これまで通り、軍事暫定政権が続くことになりました。その意味で、今回のタイ下院選挙は事前に注目されていたほど影響を与えなかったといえます。

そして、タイ以上に注目されるのが、4月17日に実施されるインドネシアの選挙です。選挙直前のインドネシアの景況感と先行きの見通しなどについて、考えてみたいと思います。


首都ジャカルタが抱える大問題

インドネシアの大統領は任期が1期5年で、原則3選は禁止というルールになっています。現職のジョコ・ウィドド大統領は2014年からの1期目を終え、2期目の再選を目指しています。対抗馬は野党のプラボウォ・スビアント氏と、ちょうど前回5年前の選挙と同じ顔触れですが、接戦になることが予想されています。

大統領候補

JETRO(日本貿易振興機構)の統計によると、インドネシアの総人口は約2.6億人。中国、インドを除けばアジア最大の国です。特に首都であるジャカルタは、インドネシアで最も人口の密集している都市です。

一般的に、人口が1,000万人以上の都市を「メガシティ(巨大都市)」と称しますが、JETROの統計によると、現在、ジャカルタの人口は1,047万人で、メガシティの1つとなっています。

世界の主要都市の中で比較しても、ジャカルタは「交通渋滞が最悪な都市の1つ」という不名誉なレッテルを張られるほど、慢性的な渋滞に悩まされている都市です。実際、筆者は2016年に現地を訪れましたが、どこに行っても常に渋滞で、クルマでの移動時間の長さに苦労させられました。

高速鉄道の開通が現職に追い風?

この渋滞問題に対して、インドネシア政府はナンバープレート規制や乗り入れ規制などを実施して渋滞緩和を目指していましたが、思うような成果が出ていませんでした。そうした状況下、画期的なニュースが飛び込んできました。

地下鉄の開通です。4月1日に開通したのは、ジャカルタ都市高速鉄道(MRT南北線)というインドネシア初の地下鉄で、15.7キロメートルの区間です。

今回のMRT開通は、今後のインドネシアの交通インフラ整備において大きな一歩を踏み出したといってよいでしょう。というのも、この案件以外にも、インドネシア国内では多くの地下鉄建設や軽量軌道鉄道(LRT)建設プロジェクトが進められています。MRT開通によって、今後の交通インフラ整備に弾みがつきそうです。

また、4月17日の大統領選挙で再選を目指している現職のジョコ大統領にとっても、4月1日の開通は追い風になったと思われます。

ジョコ氏に吹く、もう1つの追い風

交通インフラ以外に、インドネシアが直面している問題が「景気の鈍化」です。実際、2018年10~12月期のGDP(国内総生産)成長率は、前年同期比+5.18%、2018年年間では前年比+5.17%でした。

前年の同+5.07%からは改善しているものの、政府の年間成長目標である+5.4%の水準には届いていません。米中貿易戦争の長期化や国際金融市場の不透明感など、海外要因がインドネシアの成長鈍化の一因となっていると思われます。

GDP成長率

ただ、このような海外の不安定要因のうち、変化が出始めているのが中国の状況です。現時点でまだ完全に結論が出ているわけではありませんが、米中の貿易問題に関しては徐々に緩和の兆しをみせています。

そうした中で、4月1日に発表された中国の製造業PMI(購買担当者景気指数)は50.8と、好不況の境目とされる「50」を4ヵ月ぶりに上回ってきました。中国が本格的に立ち直ってくれば世界景気、インドネシアの景気に与える影響は大きいと思われます。

国内での政策進展への期待、中国景気の底打ちという追い風を武器に、4月17日の大統領選挙では、ジョコ大統領が再選を果たすと予想されます。そして、これがきっかけとなり、その後の景気浮揚にもつながりうるとみています。

<文:市場情報部 アジア情報課長 明松真一郎 写真:ロイター/アフロ>

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