はじめに

短期的には激しい動きを予想

長期的な視野においてはメリットも多い東証1部の基準見直しですが、短期的な観点では、東証1部の銘柄が減ることで、東証1部に残留した銘柄に資金が集まり、降格した銘柄から資金が抜けてしまうことに注意しなければなりません。

現に、TOPIXの基準が変わることにより、株価が動く事例があります。「調整係数適用銘柄の見直し」というイベントです。

実はTOPIXは市場で流通している株式の時価総額を反映したもので、浮動株を計算対象としています。
市場に流通している株数が少なかったり、上場直後だったりという事情がある銘柄(調整係数適用銘柄)は、本来の時価総額の75%という調整係数を掛けてTOPIXに反映されます。

この見直しは3ヵ月ごとに行われ、実施月の上旬に公表されることとなっています。この情報を使えば、TOPIXに占める各銘柄の割合が予測でき、機関投資家の売買を予想して先回り売買することが可能になります。

先週4月5日にも調整係数適用銘柄の見直しが行われました。ソフトバンク(9434)など有名な銘柄が調整係数の適用が解除されているほか、多くの地方銀行が調整対象となっています。今回の上場基準の見直しも、この調整係数対象銘柄の見直しと同様、すぐにその情報を確認し、適切な判断が取れるよう備えておくべきでしょう。

たとえば、東証1部の上場基準となる時価総額が、これまでの20億円から、観測されている500億円に変更となった場合を考えてみましょう。

時価総額が500億円の水準に満たない銘柄は、TOPIXからも外れることとなります。TOPIXから外れると、TOPIXを基準に運用している機関投資家の売りが発生する可能性が高くなります。そこで、個人投資家やヘッジファンドなどが機関投資家に先回りして銘柄を手放すという動きが見られると考えられます。

しかしながら、多くの人が同じ行動を取る場合、本来TOPIXから除外されることによるインパクトを超えて株価が下落することもあります。この場合、投機的な売買を行う市場参加者に加え、バリュー投資を行う別の機関投資家も買いを入れてくる可能性があり、上下ともに値幅が激しくなることが予想されます。

過去にはマイナス10%超の暴落も

2000年4月には、日経平均の30銘柄入れ替えによって、市場の動きとは関係なく10%も日経平均が下落したことがあります。この事例では、日経平均に採用される銘柄が採用前に大きく値上がりしたことなどもあって単純に比較はできません。しかし、仮に東証1部の時価総額の基準が500億円となった場合、今回の事例では今の半分程度に相当する1,000以上の銘柄が格下げとなる可能性があります。

制度の詳細については今月から徐々に明らかになる見通しです。令和の株式相場の幕開けは、TOPIXや東証1部銘柄の乱高下に十分な注意を払うべきでしょう。現在有力である時価総額だけでなく、利益の推移といった別の観点の基準が付加される可能性もあります。株式をお持ちの場合は、今一度ご自身が保有されている銘柄の財務状況を簡単におさらいしておきましょう。

<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>

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