はじめに
「三陽商会」という社名を聞いたことがなくても、「バーバリー」というブランド名であれば、ほとんどの人が知っているのではないでしょうか。
同社は1965年からバーバリーのコートを輸入し、1970年に日本国内におけるバーバリーブランドの企画・製造・販売ライセンスを獲得。日本にバーバリーを浸透させた功労者といっても差し支えない会社です。
その三陽商会が今年3月に開いた株主総会で、ピンチに陥っていました。「配当を倍増せよ」という株主提案を、シンガポールのファンドが提出したからです。そして、このピンチを救ったのも、米国に籍を置く別のファンドでした。
いったい、なぜ三陽商会はこんな状況に陥ったのでしょうか。そして、株主総会を舞台にファンド同士が駆け引きを繰り広げた背景には、どんな事情があったのでしょうか。舞台裏を掘り下げてみます。
ファンドも一括りに見てはいけない
かつては外資系ファンドというと、「ハゲタカ」の異名をとり、キャッシュを貯め込んでいる会社に対してとてつもない増配を要求したり、経営が傾いた会社を安く買いたたき、資産をバラ売りするというダーティーなイメージが強かったように思います。しかし、最近はずいぶんと様変わりしています。
たとえば、アルミサッシやトイレでおなじみのLIXILグループ。昨年秋、社外から招聘した雇われCEO(最高経営責任者)をクビにし、自らトップに返り咲いた創業家出身のドンが、今度は外国人株主から突き上げられています。
この雇われCEOの手腕は株主から高く評価されていましたし、クビにした経過が不透明だったので、外国人株主としては看過できなかったわけです。
ファンドには、現物と先物の価格差に着目して細かい売買でサヤを稼ぐ「ヘッジファンド」や、未上場会社に投資したり、上場している会社を買収して非公開化し、再上場や株式の転売によって儲ける「プライベートエクイティファンド」など、異なる投資手法を持つさまざまな形態があります。
台頭してきた“正論をはくファンド”
近年台頭してきているのが「エンゲージメントファンド」です。長期的視点に立って、会社側と対話ができる関係を構築し、助言して投資先の企業価値を高めようとするファンドです。
こうした投資手法を採っているため、株価が安く放置されていて、改善の余地があるうちに投資を開始します。投資期間は基本的に5年以上なので、短期的な利益を追うような要求はしない代わりに、ガバナンス(企業統治)がお粗末だったり成長投資をサボったりしていると、まさに正論で改善を求めてきます。
このような投資スタンスなので、一部の株主が不当な要求を会社側に突きつけていると判断すれば、会社側の味方にもなってくれます。3月28日に定時株主総会を終えた三陽商会が、まさにそうでした。
冒頭でも触れたように、三陽商会といえばバーバリーでしたが、2014年5月、三陽商会はバーバリー側から、ライセンス契約の更新を拒絶されてしまいました。契約は15年ごとに更新してきたようですが、2015年6月末で満期を迎えるので、2015年春夏シーズンを最後に、それまで三陽商会が担ってきた企画・製造・販売の業務をバーバリーグループが直接手掛けることになったのです。