はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回は読者の家計の悩みにプロのFPとして活躍する野瀬大樹(のせ・ひろき)氏がお答えします。

3年前まではお金に無頓着で、放っておいてもどんどん貯まっていました。言われるがままに銀行口座を開設したり、生命保険に入ったりしていましたが、管理が悪く、通帳も判子も見つかりません……。キャッシュカードも保険証券もどこへ行ったのかわかりません。こんな状況で資産を明確に把握するためにはどうしたらいいのでしょうか?

契約先の会社名(銀行や保険会社)も、うろ覚えです。例えば、九州の○○駅の角の交差点にある、名前も忘れた銀行に口座を開設した気がするけれど、いくら預けたかわからないうえに、通帳も判子もありません。あるいは、東京にいた頃、生命保険を勧められて500万円を一括払いしたけど、なんの保障だったかわからないし、証券もありません。引っ越しても保険会社に連絡をしておらず、保険証券も手元にありません。

このようなことが多々あります。これらの銀行口座や生命保険の契約を証明する書類や記録などが一切ありません。今までに10回ほど引っ越しをしていて、当時の自分の住所や電話番号はもう覚えていません。こういった状況で、どのようにして、お金を取り戻せばいいのでしょうか?
(50代前半 既婚・子供なし 男性)


野瀬: まず個人的な感想ですが、質問者の方はかなりのお金を持っている方だと思います。私のような小心者だと銀行のカードや通帳が見当たらなくなると、焦って仕事も手につかなくなるのですが、そのあたりはさすがです。

さて、このような事態になった場合にやるべきことは銀行口座と保険契約の網羅的な把握です。

第三者の不正利用の可能性も

よく「預金は10年放置すると消滅する」という噂がありますが、実際に問い合わせて本人の確認が取れれば、銀行は支払いに応じてくれます。

となると、なんのためにやるかというと、自分のお金を取り戻すという意味に加えて、自分以外の第三者に不正にお金を引き出されることを防ぐためです。

今考えると非常に無防備なのですが、昔の通帳には登録印が押されていました。これではまったく同じ印鑑を作って、お金を引き出すことも不可能ではないですよね。

さらにキャッシュカードであれば、引き出すのは簡単です。これだけお金に無頓着だったのであれば、暗証番号もわかりやすい数字が設定されている可能性が高いかと思いますので、ATMでお金を引き出すことは難しくないと思われます。

このような第三者による不正を防ぐためにも、素早い口座の把握が必要です。

一方、保険については悪用される要素はありませんが、保険金を受け取るためには保険証券が必要になります。このままではなにかが起きたときに保険金がおりません。それを再発行してもらうためにも、保険の網羅的な把握が必要になります。

どうやって口座を探すか?

身もふたもない話ですが、こういった場合に完璧かつ簡単に口座を探す方法はありません。地道に各銀行に問い合わせるしかないのです。地味ですが、これが一番確実な方法です。

最近だと口座を持っている支店ではなくても、問い合わせに応じてくれますので、窓口で問い合わせるとよいでしょう。たとえば九州だと地銀は10個程度しかないはずです。問い合わせるのに丸一日もかからないでしょう。

さらに10回引っ越しているから住所を忘れたといっても、住民票を確認すれば少し前の住所なら特定することができます。また、お勤めであれば会社に、お勤めでない場合だと確定申告をしていたと思いますので、税務署に住所の記録が残っています。それらに問い合わせることで、今までの住所は確認できると思います。

そして詳細な住所を忘れたといっても市町村名までは忘れていないと思いますので、その町にある銀行に問い合わせるとよいでしょう。

次の方法が「メール」です。10年程度前なのであれば、保険にしろ銀行にしろメールアドレスを登録していると思います。

そのアドレスに定期預金の勧誘や外貨預金の勧誘、新たな保険商品の勧誘が山ほど来ているはずです。

おそらく今の状態から察するに、そのメールアドレスもわからない状態だと思いますので、まずは昔使っていたメールアドレスをプロバイダーに問い合わせるなどして調べて、メールを復活させて、そのメールボックスを確認してみることをおすすめします。

地味な作業と思うかもしれませんが、1つ見つかればそこに振り込み記録や保険料の引き落とし記録などが見つかり、どんどん芋づる式に見つかるものです。道のりは大変ですが、お金が絡む問題ですので地道にがんばってください。

口座を忘れないようにするために

実はこの手の問い合わせは、昨今少なくありません。特に高齢者の方が亡くなられたときの遺産相続のタイミングや、高齢者の方のなかでも特に家計を管理していた奥様に先立たれたケースに多くみられます。

そして以前は、息子や娘が窓口に行くことで、問い合わせや通帳の再発行をしてもらえたのですが、最近は防犯上の対策から手続きが厳しく、本人が窓口に行く必要があります。

大変ですが、口座が不明な場合は、上記の方法で地道に対応するしかありません。

私もたくさんの銀行口座を持っているので管理が大変です。基本的に通帳や印鑑は1つの銀行の貸金庫に入れることで、これらをなくさないように管理しています。保険証券も同様です。

京都のターミナル駅にある銀行に貸金庫を持っているので、ほかの銀行に行きたいときは、まず貸金庫に寄って通帳と印鑑を取ってから目当ての銀行へ。用事が済めばまた貸金庫に戻す……というイメージです。

管理場所を一元化することで管理の手間が省けます。また、家計簿アプリを使って口座を登録することもおすすめです。ハッキリ言って10も20も口座があれば、自分で管理することは現実問題、無理だと思います。

便利なサービスを使って管理を自分で「やる」のではなく、自動で管理「してもらう」のがよいでしょう。仕事も家計も「管理の破綻」は、なんでも自分でやってしまおうと思うところから始まります。便利なものはどんどん取り入れていくとよいと思います。

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