はじめに

もはや、ほとんどの人にとって生活必需アプリとなっているGoogleマップ。そして、その日本版に地図情報を提供してきたのが、住宅地図大手のゼンリンです。

そんなGoogleマップで3月下旬、突然に不具合が多発。これと同時にマップからゼンリンのクレジットが消えたため、「ゼンリンがグーグルから契約を切られた」として各種メディアで報道されました。

こうした一連の流れを受けて、ゼンリンの業績が悪化するとの思惑から、3月上旬には3,000円台だった同社の株価は、4月26日には2,420円まで下落。2ヵ月足らずで実に23%という大幅なマイナスになっています。

しかし、よくよく調べてみると、ここ1ヵ月ほどの株式市場の反応はいささか過剰すぎるのではないか、という疑念が大きくなってきました。その理由について解説したいと思います。


グーグルとの契約は切れていない

最初に検証しておきたいのが、ゼンリンとグーグルとの関係です。

ゼンリンは2005年からグーグル、ヤフー双方に地図情報の提供を開始しています。これ以降、Googleマップにも、Yahoo!地図にも、ゼンリンのクレジットが入っていました。ちなみに、Yahoo!地図には今もゼンリンのクレジットが入っています。

今回、Googleマップからゼンリンのクレジットが消えた理由や、実際に契約を切られたのかどうかなどについて、ゼンリンはどこのメディアにも一切コメントしませんでした。グーグルとの間で、かなり厳しい守秘義務契約を結んでいるからのようです。

もちろん、グーグルもコメントしていません。が、「コメントしない=否定していない」という解釈からか、「ゼンリンがグーグルから契約を切られた」という説がまたたく間に世の中に定着してしまいました。

しかし、複数の業界関係者の話を総合すると、どうやらゼンリンはグーグルとの契約を切られたわけではないようなのです。実際、10連休突入前日の4月26日にゼンリンが北九州市で開いた決算発表会見で、同社の高山善司社長は「個別契約に言及できないが、今も取引は続いている。さまざまな交渉をしている」とコメントしたといいます。

業績への影響が軽微な理由

グーグルとの取引は続いているとはいっても、その一方でゼンリンによる地図情報の提供範囲が大幅に減ったのではないかという疑いは消えません。それだけに4月以降、つまり2020年3月期の業績への影響は非常に大きいのではないかとも考えられます。

これまでグーグルへの地図情報提供によってゼンリンがいくらもらっていたのかは不明です。しかし、実際のところ、さほど影響はなさそうなのです。

根拠は2つあります。

まず、決算発表と同時に公表した会社側の2020年3月期の業績予想は、売上高が638億円、本業の儲けを示す営業利益は59億円と、いずれも前期に比べてほぼ横ばいであるという点。仮にグーグルとのビジネスが大きく依存していたのであれば、会社側はもっと慎重な計画を出してくるはずです。

もう1点は、この会社の収益の柱が法人向けの住宅地図データやカーナビ向けデータである、という点。特にカーナビ向けの地図情報提供では、ゼンリンはほぼ独り勝ち状態。この事業が同社の経営に安定をもたらしているのです。

「マップル」の昭文社と比較してみると?

株式市場においてゼンリンとよく比較されるのは、「マップル」で一世を風靡した道路地図の昭文社です。

住宅地図と道路地図では用途も作り方も違うので、本来的な意味では両社は競合関係にはなかったのですが、同一セクターとして扱われたため、証券コードは連番。上場時期も比較的近く、ゼンリンが1994年9月、昭文社が1996年9月です。

昭文社は上場初年度の1997年3月期は今の2倍以上の売上高があり、営業利益は30億円もありました。当時のゼンリンの売上高は昭文社の1.6倍程度でしたが、今では6倍以上。営業利益もゼンリンが昭文社の1.3~1.5倍程度でした。

マップルは車を持っている人なら誰でも1冊は持っていたといっても過言ではない大ヒット商品でしたが、カーナビの普及で需要が大幅に後退。道路地図では圧倒的なシェアだった昭文社ですが、カーナビ事業を牽引役にすることはできず、2012年頃をピークに同事業の業績は縮小の一途。対照的に、ゼンリンはそのカーナビを成長エンジンにしました。

昭文社の決算発表は5月15日の予定ですが、厳しい決算になりそうです。現時点での会社予想は売上高こそ前期比1.9%の増収ですが、営業損益は3億0,500万円の赤字予想。前期は10億円の営業赤字でしたので、赤字幅は縮小するとはいえ、3期連続での営業赤字になりそう。3月末退職で、全従業員の2割にあたる80人の希望退職も実施しました。

<写真:ロイター/アフロ>

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