はじめに
「喉が渇いた」と小銭を自動販売機に入れて、商品を選んで、ガシャン――。昔は日常的だったこんな行動ですが、思い返してみると最近はあまりしていないな、という方も多いのではないでしょうか。
コンビニコーヒーやマイボトル、量販店などで安価で手に入る飲料品の影響によって売上が伸び悩み、すでに飽和状態と言われている飲料自動販売機。
街から自販機の火を消すな、と業界各社は新サービスを投入。1本無料のクーポンや学生割引、歩いて貯めたポイントで購入できるアプリやまとめ買いでお得になる仕掛け、家族や友人に飲み物をプレゼントなど……画期的な自販機が次々に登場しています。
世界1位の普及率を誇る日本の自販機
街を歩いていると、いたるところで目にする自販機。競合他社の自販機が隣り合わせでいくつも並び、ひしめき合っている光景も少なくありません。
一般社団法人 日本自動販売機工業会によると、人口や国土面積を勘案すると、「世界で一番自販機が普及しているのは日本」と推測されるそう。
しかし国内の飲料自販機市場は、もうすでに頭打ちとみられています。
同社によると、2015年末時点で飲料自販機の普及台数はおよそ255万台(前年比0.8%マイナス)、市場規模では2兆133億円(前年比2.7%マイナス)と微減が続いています。
台数減の主な要因を、同社は「コンビニで展開されるコーヒーとの競合や、飲料業界の再編による設備投資の見直しによるもの」と分析。
そんななか、業界各社では変革が巻き起こっています。
アプリ活用で付加価値を生む
日本コカ・コーラ株式会社は、昨年4月から自販機がおトクに楽しくなるアプリ「Coke ON」をスタートしました。
同アプリと対応する自販機を接続した状態で商品を購入すると、スタンプを獲得できます。そのスタンプを15個集めると、好きな商品を無料でもらえるドリンクチケットに交換が可能。ゲーム感覚で日々の買い物を楽しめるようにする仕掛けです。
また、この春からは全国の中高生を対象に、ポイントが2倍になる「学得コーク」プログラムをスタート。若い世代の囲い込みを、さらに加速させています。
また、サントリー食品インターナショナル株式会社は企業の「健康経営」をサポートするためのサービス「サントリーGREEN+(グリーンプラス)」を昨年7月からスタートさせました。
社員にとって身近なオフィス内にある自販機と歩数計の機能を備えたアプリを連携させて、歩くとポイントが貯まる仕掛けです。そして貯まったポイントは、同社のトクホ飲料に交換ができます。
ポイントが付与されるために必要な歩数は、男性が64,400歩、女性が58,100歩。これは、厚生労働省の健康日本21が定める1日の平均歩数に基づいて算出されているそうです
各社、独自のスマホアプリを活用し、自販機での購入に「楽しみ」や「健康」という付加価値をつけて、生き残りを目指します。
自販機で“つながる”サービスも
地方から東京に出てきた社会人1年目の若者に、実家の母親から「元気なの?」というメッセージとともに、あたたかいお茶が贈られてくる。暑いなか外回りで頑張る部下に、「おつかれさま」の言葉とともに、上司から渇きを潤すドリンクがプレゼントされる。
自販機を通して、こんなことも可能になりそうです。
株式会社JR東日本ウォータービジネスは、3月14日からスマホアプリ「acure pass(アキュアパス)」のサービスを開始。
アプリで事前決済をして商品を購入すると、対応自販機であればどこでも商品を受け取ることができる「イノベーション自販機」の設置が始まります。
自宅からや電車の移動中などでもアプリを通じて飲み物を購入でき、この商品はメッセージを添えて家族や友人へプレゼントすることもできます。
同社は「自販機を通じて『人と人をつなげる』新しいコミュニケーションを生み出していく」としています。
また、いつもの駅、いつもの自販機で、いつものコーヒーを買っているような方に向けて、事前にまとめて購入するとお得になるサービスも提供。「事前にまとめて購入することで便利さを感じていただきつつ、ちょっとしたオトクも提供したい」と語ります。
第1号機は東京駅に設置され、順次、山手線内の新宿や池袋などの主要駅に設置していく予定だそう。
同社はこれまでも、自販機の前に購入者が立つと性別や年代を判別し、当日の気温や時間帯なども加味して、レコメンド商品を教えてくれる自販機など、イノベーティブな自販機を開発してきました。
そして今後も、「自販機の“常識”を打破する新たな提案をすることで、自販機に新たな価値を付加していきたい」と挑戦に前向きです。
“喉を潤す”以上の価値提供に挑む飲料自販機の進化から、今後も目が離せません。