はじめに

家計と収納スペースを圧迫する“お買い損”

――片付けの悩みは、いろいろなことにつながっているんですね。お金との関連はあるのでしょうか?

井田さん:関係は大いにあると思います。片付けられない人は、家計簿をつけていない人が多いです。それと、気をつけてほしいのが、ドラッグストアでの買い物。消耗品の商品数が多く、毎日何かが安くなっています。そのため、買う予定がなかったものを買ってしまう。必要だからじゃなくて、安いから買ってしまうんですね。家に既にストックがあるモノを新たに購入すると、数が増えて管理が大変になりますし、いくつあるかも把握しづらくなります。片付け訪問をすると、棚の奥から忘れられたストックがたくさん出てきたりします。これではお買い得ではなく、“お買い損”ですよね。

井田さん引き出し
井田さんの家の全カトラリーが入っている

――「安く買える」と思うとつい手が伸びてしまいます。

マヨネーズもケチャップも、いつもどこかのメーカーのものが安くなっていますし、そんなに高くなることはありません。「安いから買う」ではなく、「今、必要なので買う」にスイッチを切り替えると、部屋も整理され、無駄にしてしまうこともなく、お財布にもやさしいですよ。習慣を変えるのは、今までの惰性を手放すこと。勇気がいりますが、切らしてから買うようにすると、「あれはまだあったかな」と考えなくてよくなります。とても楽ですよ。私が尊敬する羽仁もと子先生(月刊誌『婦人之友』の創刊者)は、「たたみかけてものを買わない」と表現しています。それに、ストックがたくさんあると、使い方も雑になってしまうんですよね。

――「あれを切らしたらどうしよう」と、みんなすごく心配性になっていますよね。

「食品用ラップを切らすの、怖くないですか」と聞かれることがよくあります。ただ、食品用ラップがない時代もありましたからね。切らしている間を自分の工夫で切り抜けるのは、やってみると楽しいこと。醤油がなかったら塩味に、みりんを切らしたら砂糖で代用すればいいんです。それに、「切らしてから買う」を徹底していると、「1年間にこれだけあればいいんだな」とメドがつく。予算を立てやすくなるんですね。“お買い損”状態で次々と買っていると、計画が立てられないんです。先の分まであれこれ買っている方は、「1年間、いくらで暮らせるか」の基本額が出てこない。

井田さん引き出し
ため込まない収納

――200軒訪問したなかには、「モノを捨てられない」タイプの方も多かったのではないでしょうか。

「私は捨てられない人」「私が死んだら全部捨ててね」とおっしゃる方は多いです。ただ、モノは勝手に消えてくれないんです。いつかは誰かが捨てることになる。それは娘さんや息子さんであることがほとんど。親御さんの死後、お子さんが自分で処分するなら手間と時間が、業者に頼むなら6畳で30万円ほど費用がかかります。「自分で捨てられないなら、その処分費用を残すしかないですよ」とアドバイスすると、「娘や息子は嫌がるわ」と気づいてくださいます。捨てないことは、捨てる辛さを誰かに譲っていることなのです。

――ただ、思い出の品はどうすればいいのでしょう?

自分たちにとっての思い出の品は、次の代の人にとっては基本的にいらないもの。私の場合、娘が子育てする時に役に立つかとずっと付けていた育児日記も、「ふ~ん」で終わってしまいました(笑)。私の代で捨てようと決めたので、思い出の品はすぐそばに置いて、普段から見返しています。押し入れや天袋にしまいこんでしまうと見返すこともなく、「いつかなんとかしなきゃ」と気にかかるんですよね。それよりは、「もういいわ」と思えたら減らしていくほうが軽くなれる。アルバムなど、思い出の品を見返すのは豊かな時間ですよ。

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