はじめに

1Kの一人暮らし、本やコレクションがある人の片づけは?

――ここからは、生活スタイル別に、片付けの悩みについて教えてください。まず、私自身もそうですが、周りにも本が手放せなくて悩んでいる人が多いです。

井田さん:「この本はすごくよかったら、他の人にも読んでほしい」と考え、古書店に売るのはいかがでしょう。私の場合、この先3回以上読み返すと思ったものを残しています。ミヒャエル・エンデの作品や「長靴下のピッピ」など、童話が多いですね。孫にも読ませたいと思っています。夫は歴史小説を息子に読ませたいとずっと残していたのですが、息子は別の機会に読んでいたらしく、この間ついに手放していました。

――間取りが1Kやワンルームなど、狭い住宅で暮らしている人におすすめの方法はありますか?

広い家以上にモノの量を絞りましょう。しっかりとモノを選んで、「これもあったらいいかも」と思うぐらいでは買わない。モノの循環を意識して、使わないものを手放し、スペースを大事にしましょう。片付けには、週末を活用。「土曜日の午前中は片付けタイム」と決めて、その時間だけはフルに動いて片付けてみるのがおすすめです。片付けは、夜にはやらないこと。夜やると思い出に浸ってしまって進みませんし、時間が無制限に長くなってしまいがち。夜は「枠」がないんです。午前中に手を付けると、お昼にはお腹がすいて、時間の流れがわかります。終わりがはっきりしていたほうがいいですよ。

――どうしても手放せないモノや資料、コレクションがある人におすすめの整理術は?

たとえば作家さんや編集者の方は、資料としての本をたくさんお持ちですよね。そういった場合は、「活用できているか」を意識してください。資料を背の順に並べる、後ろの方に収納した資料も見えるようにしておく。必要なときにいつでも探し出せなければ意味がありません。洋服だって、たくさん持っていてもいいんです。ただ、全部見える状態にしていないと、活用できないものが出てきてしまいます。

訪問したお宅には、お父さんの趣味がプラモデルというご家庭もありました。箱は押し入れにしまい、組んだプラモデルはショーケースに並んでいます。そのスペースはお父さんの聖域だからそのままに。ただ、その「枠」をはみ出さないようにお願いしました。というのも、入り切らないものをお子さんの部屋に置いていたんですね。共同生活において、それはルール違反。自分のエリアで収まるよう、お父さんなりに考えてもらうようにしました。

コレクションがある人は、優先したいモノが決まっているわけです。スペースは決まっているのですから、コレクション用保管スペースの「枠」を決め、それ以外の場所はコンパクトに。これはお金や時間と同じこと。1か月の収入も、家のスペースも、1日の時間も決まっている。重要なことを優先するためには、残りを工夫していくしかないんです。モノ、時間、お金は、実は同じこと。何かひとつが上手くいくと、残りも全部上手く回り始めますよ。モノのよどみがなくなると時間の使い方も、お金の使い方も上手くなります。

――井田さんに教えていただいたルールは、どれも自分を軽くする、暮らしを楽しくするためのものなんですね。

著作に「幸せをつくる整理術」とつけたように、整理する目的は、幸せになること。「片付けなきゃ」ではなく、「片付けた瞬間から幸せになる!」と、楽しみながらやれた方がいいですよね。余白がないと、新しいことも入ってきません。モノを減らすことは、自分を軽くしてくれますし、悩みを減らし、楽しい方向へと連れて行ってくれますよ。


片付けとは関係なさそうなことが、実は片付けと、そして幸せに生きることと結びついている。自身の経験と豊富な訪問片付け実践から紡がれる井田さんの言葉は、力強いものでした。井田さんは、「手を動かしてさえいれば、確実に目に見えるものが変わってくる。そして、気分がすっきりする。それが片付けです」と話します。全2回にわたってお送りした井田さんの整理術。実践できそうなことから、試してみてはいかがでしょう。

「『ガラクタのない家』幸せをつくる整理術」(婦人之友社)

ガラクタのない家
NHK総合テレビ「あさイチ」などに出演し、“スーパー主婦”“片付けの達人”と呼ばれる井田典子さんの著書。3人の子育て中に工夫した整理収納、時間の使い方などを発信し続けてきた井田さん。その井田さんが、娘さん夫婦と二世帯同居をすることに。60歳を前にしての“暮らし替え”の様子とともに、その整理術を紹介。また、一般家庭への片付け訪問でのビフォア、アフターも収録。シンプルライフの極意が学べる一冊。

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