はじめに
国内ファスナー市場トップで、世界シェア4割を占める「YKK」が新たな4カ年計画を発表しました。そのなかのある意思表明が注目されています。
YKKは高級路線に逃げず、汎用品市場に本格的な戦いを挑むというのです。中国産の低価格・低コストの商品と日本の高級ファスナーメーカーが戦うことができるのか? 今回の宣言の背景を探ります。
YKKの反攻宣言の意味
世界市場の4割を占めるファスナー界の巨人YKKですが、足元の業績はやや停滞気味です。
直近、第三四半期の業績では、ファスナー部門の売上高は前期比で14%のマイナス、営業利益は22%のマイナスと減収減益。中国の衣料品向け販売は好調だったものの、アメリカやメキシコなど北米中米で生産調整が続いたことでグローバルの売上が減少したといいます。
そのような状況下で発表された今後4カ年の経営計画において、YKKは「スタンダードで勝負する」と一番低価格である、汎用品市場での競争力強化を表明しました。
一般的に、先進国の大企業は新興国のメーカーが成長し、低価格の商品が市場に蔓延し始めると高級品市場に注力し、そこで利益を確保しようとする習性があります。つまり、汎用品市場から逃げるという戦略です。
ところがそれを繰り返していると、どんどん市場の小さいところへ追いやられてしまう。それにYKKは反攻しようというのですが、この戦いはどのような意味を持つのでしょうか?
世界に選ばれるYKKの品質
ファスナーもほかの工業製品と同様に、高級品・中級品・汎用品に分かれています。
例えば、ルイ・ヴィトンやプラダといった高級ブランドには高級感あふれたファスナーが使われています。日常的に着るブルゾンやスラックスには頑丈でなめらかに滑る中級品のファスナーが用いられ、100円ショップで売っている布製のポーチや財布に使われているファスナーはいかにも安価な汎用品です。
海外のブランド衣服のスライダー(ファスナーを開閉させる部品)に「YKK」の文字が刻まれているという事実は、昭和の時代には日本人にとっての誇りでした。
「あれほどの高級ブランドでも日本のファスナーが優れていると考えるのだ」ということに、日本人のものづくりの自負心をくすぐられたものです。
実はおもしろいことに、ファスナー以外の工業製品では90年代からゼロ年代にかけて中国製品の品質が上がり、日本の製品は市場から追い出されていったのですが、ファスナーはゼロ年代に入ってからもそのようなことが起きませんでした。そこにはある秘密が存在していたのです。