はじめに
YKKが競争力を失わなかった最大の理由
例えば、ユニクロのチノパンツをみると、いまだにYKKのファスナーが使われています。これのなにが不思議かというと、ユニクロはコストダウンに恐ろしいほどうるさい会社だからです。
あれほどコストにうるさい企業がYKKのファスナーを使っている。ユニクロの衣料品で使われるファスナーは中級品の部類ですが、品質はもちろん、コストでもYKKの製品が選ばれている。
しかも、YKKのファスナー事業は売上高営業利益率が直近で17%と高収益。儲かっているのです。
つまり、いい品質のファスナーを衣料品メーカーに買い叩かれたとしても、YKKは大きな利益を出すことができるのです。どうしてそれが可能なのかというと、競争相手が同じコストで同じ品質のファスナーを作れないからです。
他社が真似できない理由は、「ファスナーを製造する機械」にあります。YKKは、この機械を自社で作っているのです。
日本のメーカーの多くが、あとから興ってきた中国メーカーにコストだけでなく品質でも負けてしまった最大の理由は、製造機械を外部から購入していたことにあります。同じ製造機械を購入すれば、中国メーカーでも同じ品質の商品を製造できるようになってしまう。
ローエンド市場攻略の勝算は
ところがファスナーに関していえば、YKKはファスナーメーカーであると同時に、高品質のファスナーを低コストで生産する機械を製造しているメーカーでもありました。
だから中級品以上の市場では負けることがない。これがYKKの強さの秘密です。
しかし、汎用品市場ではYKKほどの品質ではなくとも「ファスナーを安く製造することができる機械」を販売する機械メーカーが存在し、中国企業はその機械を使って極めて安価なファスナーを量産しています。
100円ショップで販売する財布や化粧品のおまけでもらえるポーチなど「100回使ったらファスナーが壊れてしまった」ということになっても顧客もそれほど怒らない商品が世の中にはあって、そこでは安かろう悪かろうのファスナーが使われています。
このレベルになると、さすがにYKK品質のファスナーはコスト的に太刀打ちできないわけですが、この状態を放置するとどうなるでしょうか?
徐々に、そして確実に、安かろう悪かろうだった汎用品のファスナーの品質が向上していきます。これは世界中のあらゆる商品で起きて来たことなのです。そこでYKKは、汎用品のファスナー生産に取り組む意思を表明しました。
YKKの社長がとても興味深いことを言っています。
「今ある商品のコストダウンには限界がある。『引き算』ではなく『足し算』の発想で商品を作る」。
ちょっと謎めいた言葉で、その意味は深く説明してくれてはいません。
ただそのヒントとして、YKKの“技術の総本山”である富山県黒部市に生産ラインへのロボット導入を研究するセンターを置くそうです。ロボットの手を借りることで、中国より低コストで製品を作り出す方法を編み出そうというのでしょうか? YKKの挑戦から目が離せません。