はじめに
対立する米国と中国の思惑
しかし米トランプ政権は、中国経済の規模の大きさ、米国の安全保障や選挙対策などの観点から、中国に要求する「不公正の改善」を関税引き上げという手段で迫っているのです。中国が自由貿易を守るといっても、不公正に依拠した産業での自由貿易は米国経済に良いとは言いがたいのです。米国で蔓延する「中国脅威論」の背景は、ここにあると思います。
一方、中国からすると、時間を稼ぎたいのです。米国が要求する不公正を改善(=中国政府が取り組もうとしていること)するためには、民間企業の競争とイノベーションを糧に、付加価値を生み出す産業を幅広く世に送り出すことが必要です。
ところが、日米欧などの主要企業が世界市場を席巻する中で、打って出る場所は多くはありません。「一帯一路」構想で市場を押さえたい一方で、産業育成の主体を地方政府から、急に市場メカニズムへ変更することが得策とは思えません。
このために、なおさら国内保守派は「経済が発展途上で所得水準が中所得国であるのだから、産業保護政策を行うことは当然だ」と主張しているのでしょう。
今後は米国経済にもダメージ?
こうなると、米国ですべての中国からの輸入品に追加関税が掛かる可能性は高まってきます。
テクノロジー関連を除く2,000億ドル相当の製品への関税は、中国の変節に対応する形で10%から25%に引き上げました。今後、習政権がこれといった解決策が打ち出せないとすれば、米国はスマートフォンなど消費財を含む残り約3,000億ドル分に追加課税を課すことになるでしょう。
消費財の関税が幅広く引き上がれば、中間層減税を進められなかったトランプ政権の下では、消費のテコ入れが難しくなる可能性があります。後は、増加する政府収入をうまく使って経済に還元してくれることに期待したいものです。
<文:チーフ・ストラテジスト 神山直樹 写真:ロイター/アフロ>