はじめに
半導体は「産業のコメ」とも呼ばれるように、エレクトロニクス製品を中心に多くのものに搭載されています。
特に今後はIoT(モノのインターネット)や次世代通信5Gといったジャンルを中心に、一層の需要が見込まれています。また、将来的には自動運転の普及も期待される自動車業界も、半導体にとって一大市場となってくるでしょう。
しかしながら、「シリコンサイクル」と呼ばれる変動の波が大きく、半導体工場を新設・増設する設備投資は低調に推移しています。その中で独自の強みを発揮しているのが、シリコンウエハメーカーです。
低調な業界で気をはくシリコンウエハ
半導体業界には、半導体そのものを作る半導体メーカー、生産設備などを作る製造装置メーカー、半導体の原材料や製造工程で使用される材料メーカーなど、多岐にわたる企業が存在します。
2019年春現在、スマートフォン用途の鈍化、データセンター投資の一服、あるいは米中問題への懸念などから、業界全体の成長は鈍化し、今後の成長が待たれる局面にあります。このように業界全体の設備投資が低調な状況下でも、比較的元気な業種がシリコンウエハメーカーです。
シリコンウエハとは半導体の基板となる重要な部材であり、通常は円盤状の形をしています。半導体メーカーはこの基板に回路を書き込み、配線などの後加工処理を施し、検査を経た後、家電や通信機器メーカーなどに出荷します。
過去を振り返ると、顧客である半導体メーカーからの値下げ要請などによって、シリコンウエハメーカーが苦労を強いられる時期もありました。しかし、2016年以降は半導体市場が再加速したために需給が逼迫し、値上げが通る環境となってきました。現在は中長期的な需要拡大予測から顧客と長期契約を結ぶケースも増え、価格も安定しています。
注目すべき元気な企業は?
このように足元の設備投資低迷とは一線を画したシリコンウエハ業界にあって、特に元気な企業が存在します。
半導体製造ラインでのテスト用に使用される再生ウエハを手がけている三益半導体工業(証券コード:8155)、ウエハ製造部材であるルツボなどを製造している東洋炭素(5310)、ウエハケースを開発・製造している信越ポリマー(7970)などです。
これらの企業はそれぞれが独自の強みと成長要因を持ち、業界全体の短期的逆風にもめげることなく、将来の成長に向けた設備投資を活発に行っていることが特徴です。
三益半導体工業は信越化学グループに属し、シリコンウエハの加工に加え、テストに使用される再生ウエハの加工も行っています。一度使用されたシリコンウエハを再加工することで、新品より低価格となる点がメリットです。特に回路の線幅が微細になった昨今の半導体業界で、技術力に優れる同社の再生ウエハはニーズが高く、今後も成長が期待されます。
東洋炭素は、シリコンウエハの元になる棒状の「シリコンインゴット」を製造する際に使われるルツボを製造しています。ルツボの原材料となる特殊黒鉛は熱や電気特性に優れ、東洋炭素はこの分野で強い技術力を誇っています。特に近年ではルツボの大型化が進んでおり、大型化のノウハウを持つ同社の技術力が一層クローズアップされています。
信越ポリマーは、シリコンウエハを運搬するケースを開発・製造しています。わずかなホコリや異物も許されないウエハケースを開発するには、材料である樹脂の特性に対する技術蓄積や成形技術が必要で、同社はこの分野で世界的に高いシェアを持っています。
<文:企業調査部 大澤充周>