はじめに

前回は、非エンジニアがエンジニアとうまく協働するために、どのようなことを気をつけておくべきか、について書きました。

今回は、ビジネスパーソンのみならず、学生、さらには子供のいる親も気にしているであろう、「プログラミングを学ぶ価値とはなにか?」についてお話できればと思います。

実際、今年の3月には楽天の三木谷浩史会長兼社長が「ITサービス会社に勤務しているなら、コンピューターについての基礎知識は必要だ」とBloombergのインタビューに答え、「英語に続き、プログラミングも全社員に対して習得を必須化するのではないか」とニュースになったことは記憶に新しい話題です。

上記のニュースだけでなく、教育課程におけるプログラミング学習の必修化などの話題も盛り上がる中、非常に身近な話として「プログラミングスキルが社会人としての必須スキル」とされる未来を一つの可能性として受け入れていく必要があります。

結論から書かせて頂くと、「すべてのビジネスマンがエンジニアレベルでプログラミングをできるようになる」必要は全くありません。ただ、よく言及される表現をお借りしますが、「読み書きそろばんレベル」として「プログラミングスキルを持っておく」ことは必要な時代になっていくと考えています。


読み書きそろばんとしてのプログラミング

「読み書きそろばんレベル」で「プログラミングができる」とはどういうことを指すでしょうか?

まず前提として、文章の読み書きができるからといってすべての人が「言語学者」や「文学者」になるわけではありませんし、算数や数学を学習したからといってすべての人が「数学者」になるわけではないですよね?

それと同様に、プログラミングも「エンジニア」や「プログラマ」として仕事ができるレベルを目指す必要はありません。必要に迫られたら理解でき、使う必要があれば使うこともできる、私のいう「読み書きそろばんレベル」は、このレベル感を指しています。

そのため、

・テクノロジーが社会に与える影響について充分なリテラシーを持つ
・必要に応じて身近な課題解決手段としてプログラミングを利用できる

という意味で「プログラミングスキルを習得する」ことが必要だと考えています。

情報リテラシーとしてのテクノロジー理解

まず、前者のリテラシーをきちんと持つためには、プログラムの書き方自体を学ぶ必要はありません。

私が非常に素晴らしいと思うコンピュータ・サイエンスの入門書籍に『入門 コンピュータ科学 ITを支える技術と理論の基礎知識』という書籍があります。1985年に初版が発行され、現在第11版を数えるまでアップデートされ続けられ、全米の大学でも導入されているコンピュータ科学の教科書です。

本書では、各技術的トピックを解説している各章の末尾に「社会問題」という節を設けており、そこで「テクノロジーが社会に与える影響」について考察させる「深い問い」が提示されています。

参考までにひとつ引用すると、「第四章 ネットワークとインターネット」の章末トピックとして、下記のような設問が設けられています。

「ネットワークによるコンピュータの接続は、在宅勤務の概念を普及させた。この動きの賛否両論を示せ。在宅勤務は、天然資源の消費に影響するか。家族の絆を強化するか。”職場の人間関係”によるストレスを減少させるか。[後略]」

テクノロジーやインターネット、プログラミングの世界に付随して生まれているあらゆるサービスは、あらゆる産業の新たなインフラとして影響を与えるものです。このような問いについて考えるだけでも、非常に幅の広い考察対象が生まれることに気付かされます。

つまり、「具体的なプログラミングスキル」よりは、上記のような「テクノロジーが社会にどのような影響を与えているか」について本質的に考えられるようになることが、ビジネスパーソンにとって価値が高く、義務教育課程を含めて今後の社会を生きるにあたって必須の観点になると思います。

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