はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回は読者の家計の悩みについて、プロのFPとして活躍する深野康彦(ふかの・やすひこ)氏がお答えします。
現在、不動産を新築で3件購入しています。 所有目的は生命保険、もしもの時のインフレ対策とおまけの節税です。繰り上げ返済の仕方についてご相談があります。
物件1:残債1,850万 残り融資期間32年 金利2.45%
物件2:残債1,750万 残り融資期間32年 金利3.50%
物件3:残債2,100万 残り融資期間34年 金利2.00%
まずは金利が高い(2)から返済しようと思うのですが、期間短縮か返済額減少かどちらにしようか悩んでいます。返済用に200万ほど準備しています。目的の生命保険としては返済額短縮の方が見合っているのですが、これからの経済環境を考えると、早めにできるだけ返済しておきたいとも思います。
まず100万円を返し期間短縮を行い、その後100万円で返済額を減らすなどの方がよいのか? それとも株式などで運用したほうがよいのか? ご意見のほど、よろしくお願いします。
(40代前半 既婚・子供なし 男性)
深野: 不動産ローンの繰り上げ返済を考えられているようですが、セオリーからいえばご質問者の方が考えていらっしゃる通り、金利の高いものから返済していくべきでしょう。
期間短縮か返済額軽減かを悩まれているようですが、数年先を見越しても毎月の返済負担が厳しくないならば期間短縮を選択し、厳しくなるようであれば返済額軽減を選ばれるとよいでしょう。
繰り上げ返済は、その都度、期間短縮と返済額軽減を選ぶことができるため、今後も繰り上げ返済を考えられているならば、状況を見ながら選択されるとよいでしょう。
生涯賃借人がいる保証はない
ご質問とはやや内容がそれてしまいますが、気になるのは「生命保険」代わりに不動産投資を行われていることです。万一、病気等で亡くなった場合、住宅ローンは団体信用生命保険(団信)で相殺され、以後は毎月の家賃収入を残された家族が受け取るという趣旨で投資されたのだと思われます。
ただし、生涯賃借人がいる保証はありません。また、賃借人がいたとしても希望する家賃収入が得られるかどうかはわかりません。賃借人がいなくても、不動産には固定資産税をはじめとする諸経費等が維持費として発生することも忘れてはなりません。
仮に賃借人がいなくなっても不動産という資産が残るので、不動産を売却すればその売却代金を家族に残せるから損はない、とお考えなのかもしれませんが、不動産を希望する価格で売却することができるでしょうか。
あまりに不透明要因が多すぎるきらいがあり、生命保険代わりになる代物ではとてもない気がしてなりません。
税制上のメリットは?
亡くなった場合、純然たる生命保険には相続人1人当たり500万円の非課税枠がありますが、残念ながら不動産の場合は非課税枠はありません。
小規模宅地の評価減を活用しようにも、質問からうかがい知れる限り使うことはできないと思われます。さらに、残された家族が家賃収入を得られたとしても、その収入は不動産収入となることから、家族の所得税負担が厳しくなるなど、生命保険で得られる税制上のメリットをほとんど受けることができないのです。
もしもの時のインフレ対策も視野に入れられているようですが、インフレになったとしても資産価格が高騰するようなインフレの到来は予測しにくく、まして不動産価格の高騰は一部の地域を除けば期待薄に感じられます。
もちろん、不動産価格の予測は外れるところもあり得るので、質問者の方が信念を持たれているのであれば、インフレ対策として保有されてもよいでしょう。あくまでもひとつの意見としてお聞きください。
最後に、現在の住宅投資の収支は「おまけの節税」という文面から赤字かと思われますが、仮に空き家が1つでも出た場合、キャッシュフローを回すことができるでしょうか。空き家が出たとしても、もっと言うとすべて空室でも余裕でキャッシュフローが回るのであれば繰り上げ返済を行っても大丈夫かと思われます。
仮に空室が出た場合、キャッシュフローが厳しくなる恐れがあるのであれば、繰り上げ返済を控えるか、繰り上げ返済の額を半分に留めておく程度に控えたほうが賢明かもしれません。常に余裕を持っておくべきと思われます。