はじめに
スタートアップは農業研究にも拡大
ビロさんが経営のかじ取りを行うSHB社は、フランス・パリにある欧州最大級のスタートアップ施設の「STATION F(スタシオン エフ)」に拠点を構えています。「フランスではスタートアップの“エコシステム(生態系)”がとても整備されている」とビロさんは話します。
スタートアップ企業の発掘・支援を積極的に行おうと、企業だけでなく、政府、商工会議所、投資家、金融機関など、さまざまな会社・組織をネットワーク化したエコシステムの象徴が「STATION F」です。
「マルティニークには男性よりも女性の起業家のほうが多い」と話すSHBのビロ最高経営責任者
SHB社は現在、フランスの大手化粧品メーカーのロレアルと提携。化粧品の成分を供給する企業の組織化などで支援を仰いでいます。世界に冠たる化粧品大手との協業が可能になったのも、「STATION F」の存在が大きいとみられます。
スタートアップというと通常、IT・デジタル関連企業を思い浮かべがちですが、「農業研究など、リアル・エコノミーの領域でのビジネスを手掛ける会社へ徐々にシフトしてきています」(ビロさん)。
日本の化粧品市場にどう挑む?
カダリスは現在、輸出が中心。中国、日本、韓国などアジア向けや米国向けが多いそうです。
オンラインでの販売が全体の6割を占めており、残りは店頭での取り扱い。フランスではオーガニック製品の専門店や香水店などでの販売が多く、日本ではホームセンターの東急ハンズなどで売っています。
日本の化粧品市場について、ビロさんは「化粧品の効能に対する消費者の要求が高い」とみています。「フランスでは日本ほど効能への要求が高くない」(同)。一方で、「日本市場の難しさは、パッケージが消費者にとって重要であるということ」とも指摘しています。
「KADALYS」ブランドの製品
ビロさんはもともと環境への関心も高く、バナナのごみの分別・リサイクルなどにも取り組んできました。プラスチックごみのもたらす海洋汚染が世界的な問題として急浮上しているのを念頭に、「過度な包装をなくすのを受け入れることが、日本の消費者の明日に向けたチャレンジになる」などと意識改革を促します。
SHB社にはマルティニークの数多のバナナ農園経営者が株主として名を連ねているといいます。「多くのコメ農家が日本の会社の株主になっているようなもの」と笑うビロさん。今後、1年半から2年の期間を要して故郷のマルティニークに化粧品成分の加工工場を建設するシナリオを描きます。