はじめに
未婚、または子供を授からずに配偶者に先立たれたおひとりさまの場合、その人の財産を引き継ぐ権利は、1番が両親、2番が兄弟姉妹となります。ここまでは「想定内」という人も多いのではないでしょうか。
若くして亡くなったおひとりさまの場合、両親が健在なら両親が相続人になります。その両親も亡くなっていた場合、祖父母が健在なら祖父母が相続人になることがあります。ただ、両親、祖父母ともに亡くなっていて、兄弟姉妹が相続人になる場合、その兄弟姉妹がすでに亡くなっていると、その子供、つまり甥や姪まで相続権が及ぶことになります。
しかし、甥、姪が相続人になり得るというのは、あまり知られていないようです。
会ったこともない人が相続人に?
「私が亡くなったときの相続人に、会ったこともない甥、姪が含まれるなんて……」
そう話すのは杉井二郎さん(仮名、78歳)。三人兄弟の二男で、結婚歴はなく“おひとりさま”です。両親もすでに亡くなっています。先日、兄にあたる長男が亡くなり、相続の手続きをしたいと長男が残した遺言書を持って相談にやってきました。
遺言書は、晩年世話になった二男、三男に財産を遺贈したいという趣旨の他に、3人の子供の遺留分(※1)にも配慮した内容になっていました。杉井さんは、長男が結婚して離婚した事実は知っていたものの、その時はじめて長男に3人の子供がいることを知りました。
実は、15年ほど前に長男が妻と離婚した後、子供たちは妻に引き取られ、それ以降、父親である長男とは連絡を取らないまま今に至るようでした。もちろん、杉井さんも、甥や姪にあたる子供たちの居場所について何も知りません。しかし、長男が生前に遺言の作成から執行(亡くなった後の手続き)までを、私たち執行者に依頼していたので、なんとか3人の子供たちの居場所を突き止め、手続きを進めることができました。
今回のケースは、遺言書があっても執行者の定めがなければ、頓挫する事案になっていたでしょう。なぜなら、3人の子供たちはいずれも父親に対してあまり良い感情を持っておらず、父親である長男の葬儀に出ることも拒み、二郎さんら兄弟と直接連絡を取ることも拒んでいたからです。私たちが間に入り、結果、子供たちが早く終わらせたいということで協力していただくことができました。
(※1)遺留分とは、遺産を相続できるはずだった相続人の今後の生活が困窮してしまうことを避けるための制度。遺言等によって遺留分を侵害された遺留分権者が、一定額を取り戻すことができる権利のことをいいます。
甥、姪には財産を渡したくない!!
長男の遺言の執行が終わり、今回の件ではじめて甥や姪の存在を知った杉井さんに、このまま何もしないと、杉井さんにもしものことがあった時には、三男と長男の子供たちが相続人になる(遺産分割協議をすることになる)ことをお伝えしました。
すると、三男はともかく、会ったこともない甥や姪に、このまま自分の財産を分けることになるのは避けたく、何かよい方法はないかと、杉井さんは再び相談にやってきました。
そこで、長男がそうしたように、遺言書を作成することを勧めました。というのも、兄弟(兄弟が亡くなっている場合は甥、姪まで)には、相続権はありますが、遺留分はありません。そのため、遺言書で相続人を指定することによって、甥や姪に財産を渡さなくて済むのです。
杉井さんは、早速、遺言書の作成に取り掛かりました。