はじめに

もはや家族、5匹の猫はどうなるのか?

「実は、ほかにも心配事があるんです」と、遺言書の作成中に話を切り出した杉井さん。

聞いてみると、実は、杉井さんには家族のように大事にしている5匹の猫がいました。杉井さんにもしものことが起きたら、この猫たちはどうなるのかととても心配されていました。

杉井さんのように、自分の死後、ペットはどうなるのかと心配されるおひとりさまが増えています。そのため、最近では、面倒を見てくれる人や預かってくれる施設に負担付き遺贈したり、生前対策としてペットのためにしか使えない財産として残す「ペットのための信託契約」を結ばれる方も増えてきました。

杉井さんの作成した遺言書では、全財産を弟である三男に相続するという内容になりました。杉井さん死亡後の葬儀、埋葬、猫の飼育は三男に負担してもらいます。全財産のうち、預金口座のひとつを猫の飼育用として遺贈しました。また、万が一、三男が猫を飼育することが困難になった場合に備えて、引き取ってもらえる施設を探し、施設へ負担付き遺贈することも遺言書に書き加えました。

このように、長男の相続が発生したことで、自分自身の相続がどうなるのかを考える機会を持てたことは杉井さんにとって幸いでした。

おひとりさま相続で注意すべきこと

おひとりさまは、特に老後の生活、終活に向けて今のうちから考える必要があります。

今回の事例のように、自分の相続人が誰なのか。親族関係に不幸があったり、結婚・再婚したり、子供ができたり、養子を迎えたりと、状況が変わるたびに、相続人の確認が必要です。

出生から現在までの戸籍謄本を取得して確認してみてもいいかもしれません。戸籍は取得することができても、読み解くことが困難な場合があります。その場合は専門家に相談してみましょう。

ご自身の財産を誰に引き継ぎたいのか。認知症や寝たきりになったとき、延命治療はどうするのか。葬儀、埋葬、死後の手続きを誰にお願いするのか。意志を明確にしておかないと、判断する人がとても困ってしまいます。心身ともに不安定な状況になってからでは、正常な判断ができません。ぜひ今から、自分の最後はどうありたいのか、考える時間を作ってください。今のうちに決めておいた方がいいことはたくさんあります。

想いを遺す手段は、遺言書、エンディングノート等、内容に応じて使い分けてください。すべてを自分ひとりで考えることは難しいでしょうから、専門家に相談することをおすすめします。

<文:行政書士 藤井利江子>

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