はじめに
観戦ツアーにも久保くん効果
バルサに押され気味なのは、グッズ売り上げだけではありません。旅行会社のエイチ・アイ・エスが企画する、欧州サッカー観戦ツアーのうち、国別の一番人気はスペインの「リーガ・エスパニョーラ」のツアーで、同社広報室は「チーム別では、圧倒的にバルセロナが人気です」と説明します。
その理由として「バルセロナには世界遺産のサグラダ・ファミリアなど観光資源が多いこともあるのでは」と分析しています。レアルの観戦ツアーは「クリスティアーノ・ロナウド選手(現・ユベントス)が移籍するまでは人気がありました」ということです。
では、久保選手の移籍によって、バルサとレアルの人気の逆転は起きるのでしょうか。
エイチ・アイ・エスによると、大リーガーの大谷翔平選手が昨年ロサンゼルス・エンゼルスに移籍した当初は、観戦ツアーの申し込みは想定するよりも多くなかったそうです。しかし、開幕戦が始まり、大谷選手が二刀流を発揮し、ホームランを打ち実績を上げ始めると、ツアーの申し込み件数が一気に増えました。
「もともと大リーグが好きな人は、日本人選手がいなくても見に行きます。野球好き以外の層をどれだけ取り込めるかで特需になるかが決まります。サッカーも同じではないでしょうか」(広報室)。久保選手はまずは若手で構成されるセカンドチームからプレーしますが、そこで結果を出せば“レアル特需”が起こりえるとの見方です。
狙いは日本市場ではない?
なぜレアルは、久保選手の獲得を通じて日本でのマーケティング戦略に推し進める必要があるのでしょうか。今回の取り組みの先にレアルが見据えているのは、中国をはじめとしたアジア市場だと見る向きがあります。
2009年にレアルの会長に返り咲いたスペインの実業家のフロレンティーノ・ペレス氏は、かねてからアジア戦略を進めてきました。欧州のサッカーチームにとって、巨大な人口を抱える中国やインドなどのアジア圏は、テレビの放映権料やユニフォームの販売、スポンサー収入といったビジネスにおいて有望な市場だからです。
久保選手がレアルのトップチームで活躍すれば、日本はもちろん、アジア圏でも大きなマーケティング的効果が期待できます。7.5億ユーロ超(約900億円超)の収益を上げているとされるレアルにとって、アジア圏での大きなリターンを考えると、バルサに対して1億~2億円程度の上乗せはそれほど悩ましい決断ではなかったのかもしれません。
はたして、数年後には日本のみならず、アジア圏でも、久保選手の背番号を付けたレアルのユニフォームを着た子供たちが続出するでしょうか。久保選手とレアルにとって、大きな挑戦が始まろうとしています。