はじめに

長年にわたって日本人の死亡原因の1位であり続けている病気、がん。楽天の三木谷浩史・会長兼社長が会長兼CEO(最高経営責任者)を務めるバイオベンチャー「楽天メディカル」が、新しいがん治療法の開発について記者会見を開き、三木谷会長自らが思いを訴えました。

なぜ、医療と接点のなさそうな楽天が、「光免疫療法」という新しいがん治療の開発を参入するのでしょうか。会見の内容から探ります。


三木谷会長を突き動かしたもの

「父の治療には間に合わなかったが、父も喜ぶのではないかと、すぐに(ベンチャーへの)支援を決めた」。7月1日に開いた会見で三木谷会長は、6年前に亡くなった父への思いを語りました。

三木谷会長の父は2012年、治療が最も難しいとされるがんの1つである膵臓がんを患いました。膵臓がんは発見が遅れることが多く、見つかった時にはもう治療法がないことも多々あります。

「世界中を探せば、治療法があるのではないか」。三木谷会長はどうにか父を救いたいと、医学論文を読み漁るなどして、治療法を探しましたといいます。


父への思いを語る三木谷会長

そんな時に出合ったのが、米国で日本人研究者が開発した光免疫療法。当時、現地のベンチャー企業で実用化に向けた開発が始まったばかりで、三木谷会長は個人的に出資を決めます。

第5の治療法となるか

現在行われているがんの治療法は、がんを切除する「外科手術」、放射線を当てる「放射線治療」、抗がん剤などを使う「化学治療」の3つが主です。近年、第4の治療として体内の免疫の仕組みを利用する「免疫療法」が挙げられます。しかし、楽天メディカルの「光免疫療法」はどれとも異なり、三木谷会長は「第5の治療法になりうる」と話します。

光免疫療法ではまず、がん細胞にのみのくっつくたんぱく質(抗体)と、光に反応する物質を組み合わせた薬剤を体内に注射します。この物質を標的に、がん細胞に特殊な赤色光を当て、傷をつけて壊死させます。がん細胞を殺す力が高いうえに、周囲の正常な細胞へのダメージが少ないと期待されています。

同社が行う光免疫療法は、独自に開発した抗体を使い、頭頚部がん、食道がん、肺がん、すい臓がんなどが持つ、EGFR(上皮成長因子受容体)という物質を標的にします。

米国で末期の頭頚部がん患者30人を対象に行われた臨床試験では、がんが消滅・縮小した患者の割合は13人(43%)でした。一方で、治療と関連がありそうな有害事象が3人に起こりました。

楽天メディカルのミゲル・ガルシア・グズマン副会長は、「臨床試験の対象は他の治療法が効かなかった終末期の患者。その中で43%というのは高い数字だ」と評価しました。

同社は今後、さらに臨床試験を重ね、有効性や安全性が確認されれば、まずは日本で医薬品、医療機器として申請する方針です。国内でも、国立がん研究センター東病院で、頭頚部がん、食道がんを対象にした臨床試験が始まっています。

三木谷会長は会見で「楽天のミッションはいかに社会に貢献するかということ。国や貧富の差の隔たりなく、数多くの患者さんにこの治療法を届けたい」と熱く語りました。

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