はじめに
ビジネスとしての勝算は?
もちろん、三木谷会長が社名を冠した会社として投資する裏側には、ビジネスとしての勝算もあるのでしょう。
米国の臨床試験が順調に進み、最終段階に入るというフェーズまで来ています。さらに、同社が開発した抗体は4月、有効性が見込まれる医薬品や医療機器の早期承認を可能にする厚生労働省の「先駆け審査制度」の対象に指定されました。5月には医薬品製造販売許可も取得し、製品化はそう遠くないとみられます。
しかも、この治療法は、現在はかなり進行した2種類のがんのみで臨床試験が行われていますが、少し薬剤の種類を変えると、もっと幅広い種類のがんに応用できる可能性があります。また、早期がんにも応用できる可能性や副作用の小ささを考えると、将来的にはかなり幅広いがんを対象にした治療法になるかもしれません。
三木谷会長はこの日、「楽天が今までやってきたイノベーション、ブランド価値を使いながら、研究開発から商用まで一気通貫に行う。世界一の医薬品、医療機器メーカーを目指す」と宣言しました。
楽天メディカルでは、薬剤だけでなく、光を照射する医療機器も開発する予定です。有効な予防法やワクチンがなく、“人類の敵”ともいえるがんの新たな治療法の開発は、世界的なビジネスチャンスを秘めています。今後、楽天グループとして増資を検討するということです。
黒字化への道のりは容易ではない
とはいえ、バイオベンチャーが黒字化するのは、そう簡単なことではありません。
たとえば、ネット証券最大手のSBIホールディングスは医薬品開発などを目指す3社を設立していますが、ここ数年、毎年赤字を計上しています。事業別でみると、2019年3月期は約1億9,000万円の赤字でした。
開発のハードルの高さや承認までのプロセスの多さから、新薬開発には10~15年かかるのは当たり前とされます。このため、資金力豊富な世界的メガファーマを前に、国内の製薬会社はなかなかヒット薬を出せない現状があります。
そんな中で、亡父への思いと既存ビジネスで得られた知見を武器に、三木谷会長はどんな成果を出すのでしょうか。「単に治療法を開発するだけでなく、がん治療の仕組みにディスラプション(創造的破壊)を起こす」(三木谷会長)。異業種からの参入に、多くのがん患者が期待を寄せています。