はじめに
「ポール・スチュアート」や「マッキントッシュ フィロソフィー」などのブランドを展開する、老舗アパレルメーカーの三陽商会が、9月上旬にオーダーメードスーツ事業に参入すると発表しました。
クールビズなどの影響で職場の服装がカジュアルになり、メンズスーツ市場が縮小する中、生地やシルエットで自分らしさを出せるオーダーメードスーツは堅調な売り上げを維持しています。しかし、その分、各社の競争も激しくなっています。後発の三陽商会に勝算はあるのでしょうか。
「自分の勝負服にしてほしい」
三陽商会が立ち上げたオーダーメードスーツのブランドは「ストーリー アンド ザ スタディー」。ブリティッシュやイタリアンなど4つのスタイルと、50種類以上の生地の組み合わせから体形に合ったスーツを作ります。価格は4万9,000円(税別)からで、最短2週間で出来上がります。
ポール・スチュアートなどのブランドのオーダーメードスーツは10万円以上するのに比べると、かなり価格を抑えました。初回は採寸が必要なため店頭での注文になりますが、2回目からはインターネットで購入できます。
「スーツを通勤着ではなく、自分の勝負服にしてほしい」。ストーリー アンド ザ スタディーの開発を中心になって進めてきた、慎正宗・経営統轄本部副本部長はこう強調します。
職場での服装がカジュアル寄りにシフトし、スーツを着る回数が減る中で、生地にもシルエットにもこだわった自分にとって最高の1着を作ってほしい。これが新しいブランドの狙いだといいます。
1着のスーツに職人70人
ストーリー アンド ザ スタディーの売りの1つは、福島県にある自社のテーラード専門工場「サンヨー・インダストリー」での生産です。
1着のスーツを作る工程で関わる職人は約70人。スーツの縫製に熟練した職人が手掛け、ボタンホールなど見た目の美しさや、動きやすさにこだわった1着を作り出します。洋服の生産の場が、人件費が安く大量生産できる中国や東南アジアに移り、国内の縫製工場が減る中にあって、珍しい取り組みです。
この職人の技に、東京大学発のスタートアップ、サピートのデジタル技術を掛け合わせます。オーダーでは、店頭で仕立て技術を持つフィッターが首回りやウエストなどを採寸したうえで、タブレット端末を使い、前と横から顧客の写真を撮影。顧客の体形データを基に3D解析し、なで肩やいかり肩など、肩の傾斜まで個人の体形を細かく分析します。
三陽商会「ストーリー アンド ザ スタディー」の3D解析画面
「タブレットを使うことで、顧客に体形やスーツを着たイメージをわかりやすく伝えます」(慎副本部長)。将来的には、骨格診断やパーソナルカラーの機能も取り入れる予定です。