はじめに
三陽商会がオーダーに走る理由
なぜ、品質の高い製品を低価格にできたのでしょうか。慎副本部長は「自社工場で生産し、直営店で販売することで、中間業者にかけていたコストを抑えられます」と説明します。受注してから生産するため、過剰在庫を抱えるリスクもありません。
ストーリー アンド ザ スタディーの1号店は9月上旬に、東京・銀座の三陽銀座タワーにオープンします。2023年には売上高25億円を計画しています。
クールビズや職場の服装のカジュアル化が進み、メンズスーツの売り上げは減少傾向をたどっています。総務省の「家計調査」では、農林漁業世帯を除いた1世帯当たりの年間の背広服の購入額は、2017年が5,217円。ピークだった1991年の1万9,043円に比べると、4分の1近くまで減っています。
三陽商会の場合、こうしたスーツ不況に加えて、2015年6月末に「バーバリー」とのライセンス契約が終了した影響が尾を引き、2018年12月期業績は最終損失が8億1,900万円と、3期連続の赤字でした。
ただし、縮小傾向をたどるスーツ市場の中でも、オーダーメードスーツだけは堅調です。カスタマイズを好む消費者の心を捉えた結果と考えられます。三陽商会も2019年度はオーダーメードスーツ事業を経営の柱の1つに据え、グループ全体で黒字化を目指します。
立ちはだかる「カシヤマ」の壁
一方で、このドル箱市場を狙って、2016年ごろから紳士服量販店の青山商事やAOKIなどが次々と20~30代向けのオーダーメードスーツ事業をスタート。新規参入も多く、実店舗をほとんど持たずオンライン販売に特化したFABRIC TOKYOも、業績を伸ばしています。
三陽商会の前に大きく立ちはだかるのが、アパレル大手のオンワードホールディングスの子会社、オンワードパーソナルスタイルが展開するオーダーメードスーツ「カシヤマ ザ・スマートテーラー」です。
「カシヤマ ザ・スマートテーラー」の店舗
2017年10月にサービスを開始。実質的な初年度となる2019年2月期は、当初の計画を上回る5万6,000着を販売。売上高は37億円に達しました。
カシヤマ ザ・スマートテーラーで注目すべきは、納期の短さです。中国・大連にある自社工場で生産し、スーツを圧縮梱包して最短1週間で顧客に直接送るスタイルは、これまで納品まで1ヵ月近くかかっていたアパレル業界に「オーダーメードの革新技術」と衝撃を与えました。受注の準備工程にデジタル技術を導入し、生産効率も上げました。
オンワードHDは「スピード感に加え、3万円、4万円、5万円という価格設定が支持を受けていると考えます」と説明。イタリア製の生地などを使った6万円以上の最上級ライン「カシヤマ エスタブリッシュド1927」は、国内の工場で縫製しています。
4月には、大連にカシヤマ ザ・スマートテーラー専用の第2工場を増設しました。第2工場では年間で10万着のスーツが生産できるようになり、2020年2月期には60億円の売り上げを目指します。
主戦場はレディースへ?
カシヤマ ザ・スマートテーラーでは、駅の近くや空港など、消費者が立ち寄りやすい場所に、直営の路面店14店舗を含む46店舗を構えます。アメリカや中国でも計11店舗を展開して、海外のオーダーメードスーツ市場にも参入しています。
女性の管理職が増えつつある中、オンワードHDが力を入れるのが、レディースのオーダースーツです。家庭で洗濯できるタイプからインポート生地を使った高級ラインまで、幅広く取りそろえます。
三陽商会もストーリー アンド ザ スタディーで、レディースを展開します。女性は体形の悩みが下半身に集中する傾向があるため、ワンピースやパンツ、スカートなど、多くのアイテムで選択肢を増やします。同社のスーツの売上比率は男性8割、女性2割ですが、オーダーメードスーツでは女性の購入比率を3~4割まで高める目標を立てます。
競争が激しさを増すオーダーメードスーツ市場。3D採寸や短納期がスタンダードになりつつある中、価格と品質で他社にない強みをどう出すかが求められそうです。