はじめに

安全保障と覇権争い

米国は、中国に米国の軍事や警察の通信を簡単に傍受されては困ります。そもそも、通信設備のソフトウエアの仕様はブラックボックスになりやすく、遠隔操作で通信内容を漏洩する機能を実装されても発見しにくいのです。だからこそ、安全保障の観点から、いざという時にコントロールしにくい国・地域で生産した製品を使うことは避けたいと考えています。

主要国では外国為替及び外国貿易法(外為法)などで製品を列挙(米国は輸出管理法に基づくエンティティ・リスト)して、ハイテク製品などの特定国への輸出を制約しています。敵対する国や地域での核を含む武器製造能力を高めることを防ぐためです。米国はこれを使ってファーウェイへの技術移転を止めようとしました。

しかし、今回の米中首脳会談で米国企業へのファーウェイへの部品販売を一部容認されたように、米中のテクノロジー企業の相互依存度は高いといえます。テクノロジー産業のバリューチェーンは世界中に広がっており、一部を止めてしまうことは望ましくないのです。

つまり米国は、安全保障という点で中国製品の一部に輸入制限をかけ、覇権争いでは中国への輸出を制御することになります。いずれについても、中国の不公正から来る貿易摩擦とは別の話なのです。

今後注視すべき点は?

今後、米国は中国のテクノロジー企業を批判したり、輸出管理の対象にしたりするでしょう。しかし、投資の観点からはあまり悲観することはないと思います。

現時点で、中国のテクノロジー企業の技術は広い意味で米国の影響下にあります。独自技術を開発するというよりも、中核部品を集めて良い製品にする能力を使い、世界の市場に乗り出しています。世界シェアの高いドローン関連企業が好例で、ファーウェイも同様といえます。

しかし、組み立てるだけでは付加価値が低いので、今後はファーウェイのように世界のブランドとなる企業を多く育てなければ、中国の成長戦略は成功したことになりません。中国のテクノロジーが本当の意味でハイテクになるためには、「これがなければ世界が困る」といえるようなアイデア、製造技術を確立する必要があります。

例えば、深圳のエンジニア・ボーナス(エンジニア人口の増加)が、アイデアやビジネスの新しいイノベーションを起こすと期待されます。中国の大きな消費市場を背景としたイノベーションは、米中関係とは別のところで起こるとみています。

<文:チーフ・ストラテジスト 神山直樹>

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