はじめに
吉野家とメルペイがベストマッチの理由
1つ目の思惑以上に、吉野家にとって効果が見込まれるのが、新規客層の開拓です。
フリマアプリ「メルカリ」の利用者層は女性が全体の6割、10~20代が全体の46%となっています。こうした客層は「吉野家に最も来店してくれない層と合致します」(吉野家の伊東正明常務)。
また、メルペイの売りの1つは、自分にとって不要になった物をメルカリで売り、それによって得たポイントを生活の中で利用してもらえる点。これが「日常食の小売店である吉野家にとっては大変ありがたい」(同)といいます。
さらに、全国に展開する約1,200店の吉野家のうち、約800店が郊外立地。こうした店舗ではテイクアウトの利用が多く、テイクアウトの利用は女性が多いそうです(イートインは男女比が8:2、テイクアウトは5:5)。
テイクアウトでの利用が多い女性客の取り込みを狙う
メルカリ利用者が多いメルペイユーザーの女性に吉野家の店舗へ来てもらえれば、手薄だった若年の女性客や、それにひもづく郊外店でのテイクアウト利用が増えるというのが、吉野家側の思惑なのです。
「あと払い」で他の決済と差別化
一方、今回のキャンペーン費用は「メルカリ側の負担が基本」(メルペイの山代真啓ディレクター)。費用の大部分を同社が負担しているとみられます。そんな多額の費用を負担してもメルペイが推し進めたいのが、メルペイあと払いの利用促進です。
一般的なQRコード決済は、買い物をする前に銀行口座などからチャージしておく必要があります。この場合、利用者側には「チャージした金額を使いきれなかったらどうしよう」という不安が付きまといます。
しかし、メルペイあと払いであれば、事前のチャージは不要で、使った分だけ支払えば大丈夫。月額300円の手数料がかかるものの、キャンペーンなどで手数料以上のポイント還元を受けられれば、利用者にとってはメリットとなります(残高払いの場合、手数料は無料)。
こうした事前チャージ不要という利便性が受けて、メルペイの登録者数は6月に200万を突破。山代ディレクターによると、当初の計画以上のペースだといいます。
説明会に臨む、メルペイの山代ディレクター(左)と吉野家の伊東常務
初回のゴールデンウィークのキャンペーン時には金融リテラシーの高い30~40代の男性の利用が多かったそうですが、6月のキャンペーンではママ層や若い女性の利用が増えたとのこと。
今回のキャンペーンでも、「支払いの速さに加えて、チャージレスの利便性を体験として味わってもらいたい。なかなか動かない、若い女性のキャッシュレス化に向き合っていきたい」と、山代ディレクターは語ります。
決済事業者各社が巨額の資金を投じ、利用客の取り込みに邁進しているキャッシュレス決済市場。今回のメルペイの取り組みは、勢力図にどのような変化をもたらすでしょうか。