はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。

親が10年間に渡って150万円ずつ贈与してくれます。贈与税が毎年発生することは認識しています。意図的に贈与税を発生させているそうですが、これは有効な方法でしょうか? また親は、契約者は私、被保険者を親として終身保険に入るように勧めてきます。贈与で受領したものを生命保険にするのは有効な手立てなのでしょうか?
(40代前半 既婚・子供1人 男性)


野瀬: まず贈与税についての情報を少し整理したいと思います。

ご存知のように贈与税がかかるかかからないかのラインは「年間110万円」です。年間というのは暦年の1月~12月で、この1年間で110万円を超えると贈与税がかかるし、以下であればかからないということです。

そして超えた場合の税率は所得税と同様、金額が多ければ多いほど高い税率となります。税率は10%から55%までと非常に幅広いです。

分割払いには注意が必要

今回いただいた質問で気になるのが「10年間、150万円ずつ」という点です。

おそらく質問者の方は、110万円を超える40万円の部分にだけ、しかも金額が小さいので低い税率の10%がかかってくると想定しているのかもしれませんが、実はそうではないケースもあるのです。

毎年同じ金額を一定期間贈与した場合、税務署が「これは最初の年に行われた1,500万円の贈与の10年分割払いとみなす」と主張する可能性が残されているのです。

確かに、総額1,500万円を贈与するという意思決定は最初の年に行われているので、税務署の言い分にも一理ありますよね。

そうなった場合、「1,500万円-110万円=1,390万円」になるので、税率40%をとられる可能性も残っています。

このようなトラブルを避けるためには以下のような対策が必要です。

(1)金額を少し変える(1年目150万円、2年目130万円、3年目180万円……というように)

(2)受け渡しの日を変える(毎年決まった日ではなく、バラバラにする)

この点を気を付けてくださいませ。

この贈与税は相続税の抜け穴防止として存在している税制なので、そのあたりを意識しながら対策をとるとよいでしょう。

まず、110万円の控除枠はめいっぱい使うとよいでしょう。ただ「意図的」と税務署にみなされないように、ある年は90万円、ある年は150万円として贈与税をきちんと納めるかたちしておくことが無難です。

贈与したお金を生命保険に充てるのは有効?

そして、「贈与で受領したものを生命保険にするのは有効な手立てか?」というご質問ですが、これは保険商品の内容と被保険者の方が何年後に亡くなるのかによります。

大変申し上げにくいですが、保険は被保険者が「早く亡くなれば亡くなるほど得な金融商品」という性質を持っています。

そしてこれは私の経験からですが、会社ではなく個人の場合、トータルで考えて保険が税制上有効な節税になることは少ないです。なぜなら人がいつ亡くなるのかはコントロールすることができないですし、ほとんどの場合、人は思ったより長生きするからです。

そして表現は悪いですが、仮に保険で「儲かった」としても、質問者の方のケースのように、「契約者:子、被保険者:親、受取人:子」のケースですと受け取った保険金に所得税がかかってきます。

「保険金が○○円入る!」と言っても、単純に全部が手に入るわけではないのです。

さらに長生きすると、それだけ医療費がかかります。医療費はほとんどの場合、終身保険の対象外ですので、保険でカバーするには別途医療保険の契約が必要です。

そう考えると、最もシンプルな解決策としては、今回のような贈与で受け取ったお金はきちんと貯金しておくことがよさそうです。

それもそのはずで保険として契約した以上、当然保険会社の儲けも上乗せされているため、不測の事態で予想より早く被保険者が亡くならない限り、お得になることは少ないのです。

確かに、なかにはお得になる保険もあることはあるのですが、そのような保険商品自体がまず少ないのと、死亡時期の問題、所得税の問題を考えるとメリットは少ないように感じます。

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