はじめに
実際に、老後にどれだけのお金が必要になるのか?
さらに、ご相談者が、再び投資を始めた方が良いのでは?とお悩みの理由が、老後資金に対する不安感からだと思いますので、実際に、どれだけのお金を準備しておけば良いのか試算してみましょう。
まずは、現時点から60歳までの貯蓄可能額等を考えます。なお、妻のパート収入の金額がわかりませんでしたので、税金を一切払わない範囲でパートをしていると仮定すると、月額約8.3万円以下になります。そこで、妻のパート収入8万円(妻は60歳まで今の収入を維持しながら継続就労)、夫の年収87万円で試算しています。
(1) 夫が54歳から56歳まで今と同じペースで貯蓄。45万円×12ヵ月×2年間=1080万円
(2) 夫が57歳から60歳は、年収が現在の年収×7割ということなので、約61万円とします(世帯の手取り収入は69万円)。57歳は、まだ末子が大学4年生のため、教育費負担は残りますが、単身赴任に伴う交通費5万円がなくなったとして、毎月の世帯の支出は45万円。毎月の貯蓄額は24万円×12ヵ月×1年間=288万円
(3) 夫が58歳から60歳は、世帯の手取り収入は69万円。教育費負担もなくなり支出は35万円に抑えられる見込みです。毎月の貯蓄額は34万円×12ヵ月×2年間=816万円
上記(1)~(3)を合計すると2184万円になります。これに現在の貯蓄残高3300万円と退職金約2500万円を加算すると、金利等を考慮しなくても元本だけで、7984万円です。
一方、収入が減少する60歳以降、80歳までにどれだけ不足するかも試算してみましょう。
(1) 夫が60歳から64歳までは、妻がパートを辞めた場合、収入は夫のみ。しかも年収が現在の年収×3割ということなので約26万円となります。支出が変わらず35万円だとすると、毎月約9万円の赤字です。不足額は9万円×12ヵ月×5年間=540万円
(2) 夫が65歳以降、年金は月25万円程度の見込みということで、同じく支出が35万円だとすると、毎月10万円の赤字です。なお、データでは80歳までの年金額ということですので、65歳から80歳までで試算すると、不足額は10万円×12ヵ月×15年=1800万円
上記(1)~(2)を合計すると2340万円です。もちろん、老後にかかる費用はこれだけではなく、医療・介護のための費用(300~500万円)のほか、定年後のおもなイベントとして、住宅リフォーム(50~200万円)、子どもの結婚費用援助(100~300万円)、子どもの住宅購入資金援助(100~1000万円)、車の買い替え(200万円)、葬儀費用(100~200万円)などもあります。
ご相談者の場合、おそらく、これらの費用をある程度加えても、60歳時点で7984万円が準備できるなら、とくに投資で資産を大きく殖やさなくても良いのではないでしょうか?
50代は老後に向けて「攻め」から「守り」に入る時期
しかし、投資をまったくすすめないわけではなく、金融商品の特性をきちんと理解した上で、賢く利用されるのは良いと思います。
その場合にご理解いただきたいのは、ご相談者が投資を失敗した時にくらべて「リスク許容度」が低くなっている点です。通常、ある程度投資のリスクを許容できる20~40代に対して、ご相談者の年代は、投資で値下がりした資産が再び値上がりするのを待つ“時間”が限られてきます。
これまで積極的に投資を行ってきた方も、徐々に定期預金や個人向け国債、個人向け社債などのミドルリスク・ローリスクな金融商品に移行して、堅実で失敗しにくい投資スタンスに変わっていく時期です。
また、50代は、親の介護や相続などでまとまったお金が急に必要になるケースも増えてきます。投資をする前に、すぐに解約できるか、その場合に手数料などペナルティが必要かなども確認しておいてください。
就労継続のための「自己投資」も大切な投資のひとつ
最後に、金融商品を利用することだけが投資ではありません。できるだけ就労を継続させるための「自己投資」も立派な投資のひとつです。そして、こちらの投資はより確実に老後生活を充実させてくれるはずです。
なお、国の働き方改革によって、同一労働同一賃金を含めた改正法が、2020年4月1日から施行されます。(中小企業の「パートタイム・有期雇用労働法」は、2021年4月1日から適用)。「同一労働同一賃金」とは、同じ労働に従事する労働者は、その雇用形態にかかわらず同じ賃金を支給するという考え方です。これまでも労働関係法において一定のルールが設けられていましたが、2020年4月からはさらに徹底化されることになっています。
定年後、同じ仕事をしているにも関わらず、賃金が大幅に減少し、モチベーションが下がった、雇用継続を辞めようと思っているという方は、今後何らかの待遇改善の可能性もありますので、焦らず会社の動向を注視していきましょう。
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