はじめに

GDP成長率はカサ上げされている可能性

ここで、話を日本に転じます。米国と同様に、日本経済と日本株市場にも一定の関係があります。ただ最近の日本の経済指標の動きはやや複雑なので、以下で詳しく説明したいと思います。

米国株同様に、日本の株価指数の方向性は、GDP(国内総生産)成長率などの景気動向、それに規定される企業利益の動きが影響します。TOPIX(東証株価指数)でみた日本株市場は2018年1月をピークに下落が続いていますが、これは2018年央から日本経済が海外経済の不調などを背景に前年比+0.2%(7~12月)に大きく減速したことと整合的です。

一方、2019年8月9日に発表された4~6月GDP成長率は前年比+1.2%と予想外に堅調で、2019年前半にGDP成長率は持ち直したことになります。ただ、2019年前半のGDP成長率が伸びたことには、ゴールデンウィークの10連休や消費増税を控えた耐久財の駆け込み購入などで、成長率がカサ上げされている側面があります。

実際に、企業の業況判断、景気ウォッチャー調査などのサーベイは、2019年に入ってから総じて低下が続いており、2018年後半からの景気停滞は続いているとみられます。この動きは株式市場に直結する日本企業の利益推移とほぼ同じで、上場企業の企業利益は2018年10~12月から3四半期連続で減益が続いています。

日本株の底入れタイミングはいつ?

日米ともに企業利益とGDP成長率は通常連動しますが、先に述べたとおり、日本では2019年前半に両者は異なる動きを示しました。こうした乖離はまれに生じるのですが、どう見れば良いでしょうか。

まず、株式への投資判断の観点からは、GDP統計よりも企業利益の動向がより重要です。また、企業の減益傾向と整合的に企業景況感指数などが低下していることを踏まえると、企業利益の動向が日本経済の情勢をより正しく反映しているとみられます。

そして、政府が発表した2019年前半のGDP成長率は、一時的な要因などによって実態よりも過大に推計されている可能性が高い、と筆者は考えています(GDP成長率の推計値は後でたびたび修正されます)。

これまで1年半にわたり調整している日本株は、足元までの日本企業の減益が総じて適切にプライシングされている、と筆者は判断しています。そして、今後日本株がどう動くかは、米中経済や企業・家計の景況感が改善に転じるかどうかです。

日本経済は、今後も米中経済に連動して変動すると予想します。2019年10月からの消費増税によって緊縮的な財政政策に転じる可能性が高いため、国内要因では成長率が高まらず、日本経済は海外経済頼みの様相が一段と強まるためです。

そして、先に述べたとおり、米中経済の減速が当面続くという筆者の想定が正しければ、日本経済ならびに日本株底入れのタイミングは2020年半ば以降にずれ込む可能性が高いと見込んでいます。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

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