はじめに
ここ最近、男性の育児休業取得をめぐる議論が活発に交わされています。Twitterでは、夫が育休取得を理由に不利な扱いを受けたとする投稿が、大手化学メーカーの「炎上」を引き起こし、大きな話題となりました。同時期に、自民党有志が男性の育休取得義務化を目指す議員連盟を設立するなど、政策的にも男性の育休取得が重要な問題として認識されています。
日本ではなかなか進まない男性の育休取得ですが、お父さんたちが実際に育児休業を取るようになると、彼らのキャリアにはどんな影響があるのでしょうか。また、一部で期待されているように、お父さんたちは育休取得を機に子育てや家事により関わるようになるのでしょうか。
4週間の育休で所得が2パーセント下がる
お父さんが育休を取ることで心配なのは、やはり所得への影響です。ノルウェーでは1993年の育休改革で、お父さんの育休取得率が大幅に高まりました。この改革前に子どもが生まれたお父さんと、改革後に子どもが生まれたお父さんの所得を比較することで、育休取得が所得に及ぼす影響について知ることができます。
データ分析※1の結果、4週間の育休取得はお父さんの所得を2パーセントほど下げることがわかりました。そして、この影響は子どもが5歳になった時点でも消えないそうです。
2パーセントという数字自体はそれほど大きなものではありませんが、わずか4週間の育休取得が数年先の所得に影響するというのは驚くべきことでしょう。では、なぜお父さんたちの育休取得後の所得が下がってしまったのでしょうか。
この論文の著者らによると、これはお父さんたちが自分の選択として、育休後も子育てや家事により熱心に関わるようになり、仕事に費やす時間とエネルギーが減った結果なのではないかと推測しています。データが足りないため、この仮説が正しいかどうか、直接検証はされていないのですが、著者らは、これ以外の仮説についても検討しています。
やはり一番気になるのは、育休を取ったことで会社からの評価が下がってしまうのではないかという点です。しかし、この育休改革の結果、お父さんの育休取得はもはや普通のことになってしまったため、育休取得を理由に不利に扱うとは考えにくいそうです。
また、プロとしての仕事の能力が育児休業中に落ちてしまうことがよく心配されますが、たかだか4週間の育休で仕事の能力が落ちるとは考えにくいため、こちらも当てはまらないだろうと著者らは考えています。