はじめに

日本市場は「落ちかけのナイフ」?

景気動向指数のうち、CIはさまざまな経済指標を合成した指数であり、景気の“山”の高さや“谷”の深さのみならず、景気拡大や後退の勢いを確認することができます。今回使用するCI先行指数は新規求人数をはじめとした、景気に先行する代表的な11指数を合成したものです。

下図は、バブル期から現在に至るまでの日経平均株価に内閣府のCI先行指数を重ねたものです。

CIと株価

ここ30年程度の状況をみると、CI先行指数は80ポイントを割る水準が景気の“谷”となり、100ポイント近辺が景気の“山”となる傾向があるようです。バブル期の1980年代後半では、株価の上昇と比較してCI先行指数の伸びには息切れ感がある状態であり、過熱相場であることが示唆されています。

反対に、サブプライムローン問題を発端とした2007~2008年の世界金融危機辺りで比較すると、CI先行指数が急激に戻したにも関わらず株価は低迷を続けており、その後の株価回復を示唆しているようにもみられます。

足元の株価は2万円台で膠着した状態です。一方で、CI先行指数の動きは2年近く下落基調を示しています。景気が“山”と“谷”のサイクルを繰り返していくことを考えれば、景気の“山”となる水準は2014年ごろにピークになっているともみられ、今後は“谷”を探しているという状態であるようにも思われます。

このように考えると、日本市場は「落ちるナイフ」というよりも、むしろ「落ちかけのナイフ」ともいえる状況である可能性が否定できません。仮にこのままCIが下落していけば、直近の安値水準2万0,400円台がサポートラインであるというテクニカル要因からの説明も正当化できなくなってしまうでしょう。

ナイフは落ちかけが一番危ない

「落ちるナイフはつかむな」という言葉のイメージのせいで、「落ちるナイフ」よりも「落ちかけのナイフ」をつかむことが一番危ないということが見過ごされがちです。

落ちるナイフをつかむ場合、すでに株価はある程度下落しています。そのため、下落前に購入した投資家よりもダメージは少なくなります。購入理由が値ごろ感であることも幸いして、心理的にも損切りしやすい状態にあるといえるでしょう。

一方で、落ちかけのナイフをつかんでしまうと、本格的な下落はこれから発生することになります。そのため、相場下落のダメージを最も受けてしまうのは、落ちかけのナイフをつかんだ投資家です。購入理由が値ごろ感ではなく、しっかりと考慮したものであればあるほど、心理的に損切りが遅れてしまいがちです。

そのため、ファンダメンタルズ要因から「落ちかけのナイフ」パターンが疑われるような状況においては、取引の時間軸を短めにしたり、ポートフォリオに占める現金の割合を引き上げたりすることで、突発的な下落のダメージに備えることができるでしょう。

積み立て投資のような長期的観点の投資を行っている方については、積み立てる間隔を少し広げるなどして、1回当たりの積み立て金額を下げるという対策も有効です。「落ちるナイフ」相場の後には、もっと大きなナイフが落ちそうになっていないかという「頭上確認」を怠らないようにしておくことが肝心なのです。

<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>

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