はじめに

「承認欲求なんてない」という人ほど危ない

――企業もですが、個人としても、一人ひとりが承認欲求の呪縛に陥っていることに、自分で気づくにはどうすれば?

「自分は承認欲求なんてない」と言う人ほど危ないですね。会社では「部下が自分より活躍するのが、妬ましいとか信じられない」などという上司もそうです。「大欲は無欲に似たり」という言葉があります。欲が深くて、そこに囚われている人ほど無欲を装います。というか、自分でも自分の欲深さに気づいていないんですね。

フロイトによれば、人間は「これはよくない感情だ」と思うと、それを隠そうとします。「認められたい」という感情や欲望をあからさまにすることは、"恥ずかしいこと"。だから、とことん隠して、無意識下にまで押し込んでしまう。そのため、自分でも気づけない。

本当に認められたい人ほど、「認められたい」という気持ちそのものを隠します。本気で承認欲求なんて自分にはないと思い込んでしまうわけです。そう考えると、インスタグラムでブランド物をあからさまに自慢する人などは、逆にそれほど自己顕示欲も深くないというか、承認欲求としてはかわいいものなのかもしれません。ネットにあげてちょっとちやほやされる程度で満足しているわけですから。

本当に欲深い人は、ネットで自慢したりはしないでしょう。自慢したい"恥ずかしい気持ち"がばれたら、周囲は白けて、認めてもらえないことがわかっていますから。SNSで自慢する人よりしない人ほど、本当は欲深いのかもしれません。

承認欲求の呪縛の解き方

――バリキャリ層の人が「本当に仕事で成功したいなら、承認欲求なんて青くさいものは、30代で克服しとけ」と言うのを聞いたことがあります。しかし、実際は、30代で克服できるほど、生易しいものでも、青臭いものでもなさそうです。

多次元で終わりがありませんからね。呪縛を解くには、まずは、自分自身の「認められたい」という気持ちを素直に認める。自分は誰に認められたいと思っているのかにも気をつけたいですね。

――組織や承認を求めている相手への依存度を下げるというのは?

まさにそれが対策になります。組織や認められたいと思っている相手との関係性をフラットにする。そのためには、別の世界を持つなど、その場を相対化すること。別のところで認められれば、承認欲求も満たされます。まずは別の世界を見る必要があります。

ヨーロッパの人は仕事よりもプライベートが大事だとよく言いますが、怠けているわけではなく、その方が本当に仕事の効率がいいからです。組織や仕事に入れ込みすぎると、むしろ合理的でない判断・行動をするようになります。仕事自体が楽しみで全てになると、仕事の本質とあまり関係ない細かいところが目につくようになり、無駄に力を入れたり、無意味に人にも厳しくなるからです。

そして、何より期待感と自己効力感(求めている結果と実際にできるだろうと思える気持ち)のギャップに気をつける。このギャップが大きくなると危ない。期待は高いのに、できる気がしないということになり、特に手を抜かない人は、周囲の期待を裏切ることに慣れていないため、仕事を抱え込んでしまい、メンタル不調になりがちです。適度に、自分で自分に対する期待を下げることが大事です。

これは、部下を育成中の上司や子育てしている親の心構えにもつながります。昨今は、ほめて相手の自尊心や自己肯定感を高めようとよく言われます。しかし、そればっかりはやはりダメ。周囲の期待感だけを強調してしまうことになり、部下や子供にとっては、逆に大きなプレッシャーになってしまいます。

――人を育てるにしろ、自分を育てるにしろ、期待感と自己効力感のバランスに注意していれば、承認欲求の呪縛にも囚われにくいということですね。よくわかりました。ありがとうございました。

前編:「誰もがはまる『承認欲求の呪縛』から逃れるには」

太田肇
太田肇(おおた・はじめ)
1954(昭和29)年、兵庫県生まれ。同志社大学政策学部教授。神戸大学大学院経営学研究科修了。京都大学経済学博士。専門は個人を尊重する組織の研究。『承認欲求の呪縛』『個人尊重の組織論』『承認欲求』『がんばると迷惑な人』『個人を幸福にしない日本の組織』など著作多数。