はじめに

先日、国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)という、企業ガバナンスを議論する国際会議が東京で行われ、パネル討論に参加しました。

テーマは「グローバル化が進む日本:スチュワードシップ・エンゲージメントを効果的にする――グローバル、ローカル、文化間の観点から」。総じて日本のコーポレート・ガバナンスは改善している、というトーンを強く感じました。

今回は、筆者が総会全体を通じて感じたことをお伝えしたいと思います。


進む日本の企業ガバナンス改革

パネル討論で筆者は、最初に日本のデフレと企業の資金余剰の関係を明らかにしました。興味深いことに、日本企業が資金を蓄積し、貯蓄する時、物価が下落して政府の財政支出が増える傾向にあるのです。

企業が資金を蓄積するからデフレになる、という因果関係はないのですが、外国人投資家が日本株を買わない理由の1つであるデフレは、企業が配当を増やすことで解消される可能性があります。

デフレ環境下で、企業が設備投資や研究開発に資金を使わないのであれば、配当を増やすことによって人々の消費が拡大することで、いずれ企業の売り上げも拡大し、物価上昇の刺激となりえます。

もっとも、日本企業の配当金支払総額も自社株買い総額も、欧米に比べて少ないとはいえ、歴史的な高水準に達しています。これは機関投資家が、行動規範である「スチュワードシップ・コード」を導入して企業と対話を始め、東証上場ルールとなった「コーポレートガバナンス・コード」によって、上場企業も資本効率を改善しようと努めていることにあります。

企業の資金余剰はまだ多いといえそうですが、2018年以降の輸出の伸びなどから、今後は企業が積極的に投資を行うでしょう。一方で、不要な資金を投資家に還元することで効率の高い経済となり、デフレ脱却と海外からの投資資金の回帰が期待できそうです。

重要なのは「企業の稼ぐ力」

グローバル化の進展という観点からは、日本企業の自己資本利益率(ROE)が欧米企業よりも相対的に低いことに問題がある、という考えを述べました。短期的なROEが大事といわないまでも、日本企業の稼ぐ力(利益率)は世界の中で相対的に低い水準にあります。

いわゆる「伊藤レポート」(一橋大学の伊藤邦雄教授を座長とする経済産業省プロジェクトの最終報告書)は、日本企業の“稼ぐ力”が不足していると指摘していました。日本企業のROEが継続的に低いのは、稼ぐ力(利益率)の低さによると説明でき、負債比率の低さ(資本効率)ではさほど説明できないのです。

今、日本企業の資金循環はデフレ的といえますが、世界に対して日本企業の競争力を示していないことのほうが、もっと大きな問題だと思います。

今後、日本は人口減が見込まれ、国内総生産(GDP)は減少する可能性はありますが、それ自体を株価下落要因と考える必要はないと思われます。企業の利益率が保たれ、適切に資本効率が維持されるならば、仮に日本のGDPが減少しても、株価は低迷しないと考えられるからです。

このように考えると、今後、日本の課題解決のためには、企業の利益率と資本利用に改善を求め、規模と安定から成長と効率を求める社会へ変わっていく必要があります。

課題は「投資家と企業の対話」

ところで、投資家は企業に対して、資金余剰の使い道を提案できるのでしょうか。機関投資家は一般にアナリストなどの専門家を抱えており、企業の経営課題などを把握できる立場にあります。そこでの投資家と企業との対話の強化が、課題解決の一助となると思います。

企業から見ると投資家は“外部者”ですから、経営の詳細を把握する力は限られます。しかし一方で、機関投資家は“比較し選択すること”の専門家です。企業と投資家は世界との比較に基づく対話をすべきです。

また、スチュワードシップにおけるエンゲージメント(機関投資家と企業の目的ある対話)は、事業再編や新興国への投資機会を、資金余剰の利用方法として提示するかもしれません。今後は、企業と投資家が企業の経営ビジョンやビジネスモデルを共有することが、対話の条件となっていくことでしょう。

<文:チーフ・ストラテジスト 神山直樹>

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