はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。

IT系のエンジニアをしております。仕事でよく書籍を購入するのですが、この書籍代は確定申告上、必要経費となるのでしょうか? また、会社員とは別に法人を持っていて、今は赤字の状態ですが、この赤字部分を会社員の給与から経費として計上することはできますでしょうか? 税金をなんとか減らしたいと思っています。
(40代前半 既婚・子供なし 男性)


野瀬: 基本的にサラリーマンは確定申告をする必要がありません。なぜなら会社がすでに所得税を「差し引いて」代わりに払っているからです。

「私は経費になるような領収書をなにも提出していない!」と思うかもしれませんが、サラリーマンの場合はこの「経費」を自由につけることができず、法律によって計算方法が決められてしまっているのです。

そしてこの決められた金額のことを「給与所得控除」と言います。

では、スーツや靴、ビジネス書に加え、パソコンやスマホなど今や仕事に必須になったものまで絶対に経費にできないのかというと、実はそうではありません。それが平成24年度に改正された「特定支出控除」という制度です。

「特定支出控除」とは

特定支出控除とは簡単にいうと、「仕事に関係する支出はサラリーマンでも追加的にいくらかは経費として認めますよ」という制度。その条件は以下の通りです。

A)仕事に必要な交通費・スーツ代・本・資格取得・交際費等であること
B)「給与所得控除」金額の1/2を超える金額部分であること
C)領収書があり、かつ給与を支払っている会社の承認があること

次の図表を見てください。これが給与所得控除の計算方法です。

給与給与所得控除額
65万円未満一律で65万円
65万円以上~180万円以下額面給与×40%
180万円超~360万円以下額面給与×30%+18万円
360万円超~660万円以下額面給与×20%+54万
660万円超~1,000万円以下額目給与×10%+120万円
1,000万円超~1,500万円以下額面給与×5% +170万円
1,500万円超一律で245万円

給与が500万円の場合、給与所得控除は定められた計算により154万円になります。この1/2は77万円ですから、(A)の金額が77万円を超えたら、その超えた部分を税金計算の経費に加えることができるのです。

例えば、100万円分の領収書を集め、仮に税率が10%だとしたら「(100万円-77万円)×10%=3.3万円」が返ってくることになります。

確定申告を行うべきか?

こう考えると、仕事用のパソコンやスーツが多く必要な人は、じゃんじゃん確定申告するべき……となるのですが、問題は手間です。

先ほどの例だと、3.3万円が返ってくる、とお話をしましたが、この3.3万円を得るためには以下のような手間が必要となるわけです。

・条件(C)の会社の了承をとる
・領収書をしっかり保管する
・確定申告書を作成し、提出する

この手間と3.3万円が見合うかどうかですね。私個人の感覚としてはこの3.3万円というのは税理士にお願いせず、自分で申告するのであれば、なかなかおいしいお金だと思います。

ざっくりな目安ですが、額面年収300万円の人なら70万円程度、500万円の人なら100万円程度、700万円の人なら130万円程度の経費(A)が見込めるのであれば、確定申告する意味はありそうです。

少しハードルが高いと思うかもしれませんが、パソコンや書籍、引っ越し費用なども加えることができますので、一度見積りをするのもよいかもしれません。

あと、もう1点、法人を持っているのでその赤字を個人の給与から経費として差し引きたいとありましたが、これは不可能です。これが可能になるのは、法人ではなく、副業が「個人事業」か「不動産投資」であった場合のみです。

ただし、「サラリーマンは経費をつけられない」と勘違いして、(A)の経費として計算するべきだった経費を間違って法人経費として使っている可能性もありますので、そのあたりをしっかり精査すると、意外と(A)の経費として差し引ける金額が増えるかもしれません。

申告ソフトや税理士の必要性

確定申告の際にはソフトがあると便利ですが、サラリーマンの確定申告や副業レベルであればなくても対応できます。最近は、国税庁のホームページの確定申告書等作成コーナーも充実しています。

また、税理士の話ですが……これは難しいですね。私は税理士なので、立場上は「必要です!」と言いたいところですが、ソフトと同様、税理士もタダではありません。

確定申告で3万円税金が戻ってきたのに、税理士に手数料を5万円払っていたという笑い話もあるぐらいですので、サラリーマンの確定申告や副業レベルであれば税理士にお願いする必要はないと思います。

もし不安なのであれば、自分で作成した書類の「最終チェック」だけを依頼してはいかがでしょうか? 手数料も抑えることができると思います。

最後に、忘れてはいけないのが(C)の「会社の承認」です。定められたフォームにて記載する必要がありますので、事前に会社の担当部署に話を通しておくとよいでしょう。

会社にとっては、1円の損になるものでもありませんので、すんなり出してくれると思います。ただ、その際に「会社の業務に必要であったかどうか」を確認されると思いますので、きちんと答えられるようにしておく必要がありますね。

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